2020年に行われた年金関連の法改正は人生100年時代を迎え、長く多様な働き方が可能になった環境に合わせて、老後への備え方も一人ひとりが自分に合った形で選択できるようにするものです。

iDeCoは加入や受け取りの選択肢が広がります。今回は、法改正の中でも注目の「企業型DC・iDeCoの併用可能対象拡大」について解説します。

名実ともに「誰でも加入可能」に近付く改正

企業型DC加入者の数はすでに730万人(2019年末時点)と、民間企業のサラリーマンの5人にひとりが加入者となる計算となっており、その規模は実にiDeCo加入者数の5倍にも上ります。その分、該当する方が多いわけですから、社会的なインパクトとしては、もしかしたら「iDeCoの掛け金積立期間が5年間延長!対象となる条件は?」、「iDeCo「受取開始時期の繰り下げ」でトクするケースは意外と少ない!?」で解説したiDeCoの加入・受取時期の拡大より大きいかもしれません。

ここまで読んで、「え? iDeCoって、誰でも加入できると聞いていたけど、違うの?」と思われた方が多くいらっしゃるでしょう。それは無理もありません。2017年に公務員や専業主婦が新たにiDeCoに加入できるようになった時、新聞の見出しや金融機関の広告では「iDeCoに、誰でも加入できるようになりました!」というフレーズが使われていました。

ところが実際には、企業型DC加入者がiDeCoにも加入する際には、2つの制約があります。

 ①企業型DCでマッチング拠出*を実施していないこと
 *会社が出している掛け金に上乗せして、加入者本人も掛金を拠出できる仕組み

 ②会社が、企業型DCの掛金上限金額をiDeCoの掛金上限分引き下げる規約変更
 を、労使合意の上で行うこと

この2つの制約をいずれもクリアして企業型DCとiDeCoに同時に加入する、いわゆる「iDeCoの同時加入」が認められている勤務先は1187事業所。企業型DCを導入している3万3138事業所のうちの3.6%、(いずれも厚生労働省調べ、2019年3月末時点)とごくわずかで、企業型DC加入者の大半はiDeCoの同時加入ができない状態にあります。

しかし、今回の改正でこの2つの制約が撤廃され、企業型DCとともにiDeCoも加入したいと思えば、ほとんどの方が同時加入できるようになるのです。

正確に言えば、改正を経てもなお、一部同時加入できない方がいますし、同時加入しない方が得というケースもあります。そのあたりについては、次回も含め、2回に分けて詳しくご紹介をしていきます。

マッチング拠出なしの場合は、ほぼ全員が同時加入可能に

2つの制約がなくなるとどんな方が利用できようになるか、具体的に見ていきましょう。

まず、マッチング拠出制度のない企業型DCに加入している方のケースからです。このケースに該当する場合、今回の改正によりほとんどの方がiDeCoの同時加入ができるようになります。

iDeCoの同時加入ができないままとなるのは、会社の掛金が企業型DCの上限金額である5.5万円(確定給付企業年金がない場合)、2.75万円(確定給付企業年金がある場合)に達している方だけです。ただ、これはそもそも拠出金の枠が目一杯使われているわけで、iDeCoに充てられる枠はそもそも残っていないのです。公表されているデータから推測すると、このケースの該当するのはほんの数%のようですから、「マッチング拠出制度のない企業型DCの場合は、加入者のほぼ全員がiDeCoの同時加入ができるようになる」と言っていいでしょう。

iDeCoの掛け金上限は1~2万円程度

では、iDeCoに同時加入したとして、掛金として出せる上限はいくらなのでしょうか。

前提となるルールは、iDeCoとして決められている上限額以下で、かつ、企業型DCの会社掛金とiDeCoの掛金の合計が、先ほどの5.5万円や2.75万円といった企業型DCの上限金額以下であればOKです。

もう少し具体的に見ていきましょう。

まず、iDeCoとして決められている上限金額は、企業型DCが導入されている会社にお勤めの場合は月額2万円(年間24万円)、企業型DCに加えて確定給付企業年金も導入されている会社にお勤めの場合は月額1.2万円(年間14.4万円)です。

ですから、企業型DCだけが導入されている会社にお勤めの方で、会社掛金が月額1万円の場合には、iDeCoは月額2万円までとなります。会社掛金が月額4万円と非常に多額だったとしても、同時加入するiDeCoは月額1.5万円まで拠出可能となります。

1.5万円というと、少ないと感じる方がいるかもしれませんが、iDeCo加入者の平均積立額も1.5万円(2019年12月時点)です。しかも、月額6.8万円まで拠出している自営業の方も含んだ147万人全員の平均ですから、拠出枠としては十分と言えるのではないでしょうか。