2020年に行われた年金関連の法改正は人生100年時代を迎え、長く多様な働き方が可能になった環境に合わせて、老後への備え方も一人ひとりが自分に合った形で選択できるようにするものです。

iDeCoは加入や受け取りの選択肢が広がります。今回は、法改正の中でも注目の「マッチング」と「iDeCo」の選択について解説します。

「マッチング拠出あり」でもiDeCoの利用も選択肢に

前回は、「マッチング拠出制度のない企業型DC加入者は、ほぼ全員、iDeCoの同時加入ができるようになる」点についてご説明しましたが、マッチング拠出がある企業型DCに加入している場合でも、今回の改正によりiDeCoの同時加入が選択できるようになります。

出所:第9回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 資料1
「制度の普及等に向けた改善について」(2019年11月8日)より

 

ただし、中にはiDeCoの同時加入ではなく、企業型DCでのマッチング拠出をしたほうがよいケースも少なからず存在します。メリット・デメリットを含め、ケースごとに詳しく解説していきます。

そもそもマッチング拠出とは、企業型DCにおいて、会社が出している掛け金に上乗せして加入者本人も掛金を拠出できる制度のこと。今回の改正により、「自分で掛け金を出す」場合に、企業型DCに拠出するか、新たにiDeCoに加入し、iDeCoに拠出するかの2つのパターンを選ぶことができるようになります。それぞれの特徴をまとめてみると、表のようになります。 

マッチング拠出は会社掛金に自分が上乗せするだけなので、企業型DCの口座ひとつで運用・管理できますし、給付の手続きも企業型の1か所で済ませることができます。加えて口座管理料も一般的には会社が負担してくれますから、手間と費用負担の面から言えば、基本的にはこちらをお勧めしたいところです。

「マッチング」か「iDeCo」かの選択は「会社掛金」の金額に注目!

ところが、マッチング拠出には自分の出す掛金が会社掛金を超えてはいけないというルールがあるため、会社掛金の金額が少ないと、自らの掛金も多く出すことができません。特に若い方などは、会社掛金が少ないため、本人がマッチングとして積立できる額が非常に小さくなってしまうというデメリットがあります。

ですから、手間とコストをかけて企業型DCとiDeCoの2つの口座で運用・管理することになっても、なるべく多く老後資金を貯めたいという意欲のある方は、会社掛金が低い間に限って、iDeCoを利用するとよいと思います。

では、会社掛金がどれくらい少ないとiDeCoを利用したほうが多く積立ができるかというと、企業型DCのみ導入の会社にお勤めであれば会社掛金が月額2万円以下、企業型DCに加え、確定給付企業年金も導入している会社にお勤めであれば月額1.2万円以下となります。

ただし、iDeCoの場合は口座管理料の負担というデメリットもありますので、その分を掛金の所得控除メリットでカバーする必要性も勘案すると、損益分岐点となる会社掛金額はさらに下がります。iDeCoの年間口座管理料を3000円、所得税5%、住民税10%とすると、企業型DCのみ導入の会社の場合で会社掛金1.8万円以下、確定給付企業年金も導入している会社の場合は1万円以下というあたりがiDeCoを利用する目安になってきます。

逆に、勤続年数が長くなるとともに会社掛金が増えてきて、iDeCoで拠出するよりマッチングで拠出するほうが多く拠出できる時期が来る場合もあると思います。そのときはiDeCoの同時加入を止め、企業型DCでのマッチング拠出に選択を変更することもできます。

その際、それまでiDeCoで貯めてきた資産を企業型に移して、ひとつにまとめてしまうこともできます。そうすればiDeCoの口座管理料を払い続ける必要もありません。

ただ、資産を移す際にはいったん現金化しなければならず、マーケットリスクを負うことになる点には注意が必要です。