コロナショックの影響で世界的に株式市場が乱高下する中、ネット証券各社の口座開設数、投資信託の販売額などが高い水準で推移している。一定の金融リテラシーを有し、商品の選択や投資タイミングを自ら判断したいという個人投資家にとって、ネット証券が欠かせない存在になっていることの証左と言ってもいいだろう。

着実に増えてきた「長期で投資する現役世代」

一方、そのネット証券が先鞭をつける形で、投資信託の販売手数料の無料化も広まっている。投資家のコストに向けられる目もさらに厳しくなっているだけに、それはもはや不可逆な潮流であるのは間違いない。

その背景には、「投資家層の変化がある」と指摘するのは、野村総合研究所の金融イノベーション研究部上級研究員である金子久氏だ。

金子 久 氏

事実、日本証券業協会の調査を基に、同社が2012年と2018年の投信保有者の割合を比較してみたところ、特に20~30代の男性、40~50代の女性で大きく増加していることが分かったという。

しかも、年収や保有金融資産でさらに詳しく見ると、年収300~500万円未満で株式または投信の保有者の割合が増えている半面、年収500万円以上ではほぼ横ばい。同じく金融資産50万円未満では増加しているのに対し、それ以上の層では顕著な増加は確認されなかった。「ある程度の資産を保有するシニア世代」に加え、「資産形成のために長期で投資する現役世代」が増えてきているのは明らかだ。

「これまで投信を購入していたのは、価格が上がりそうなタイミングで買い、実際に上がったら売るという層が大半でした。そのタイミングを紹介するのが証券会社や銀行など金融商品の販売会社の付加価値であり、投資家にしてもそれに対して手数料を払うのは当然だった。しかし、タイミングを求めない長期投資家にとっては、販売手数料という仕組みは合理的ではありません。そうした投資家層の変化に合わせて、販売会社もビジネスモデルを変えようとしているのが、今まさに資産運用業界で起こっていることでしょう」(金子氏)。

象徴とも言えるのが、販売時に手数料を取るのではなく、顧客の運用資産残高に応じて一定の料率の報酬を受け取る、フィーベース・モデルと呼ばれる手数料体系だ。米国などではすでに浸透しているモデルで、日本でも一部の金融機関で導入されつつある。

つまり、「新しい投資家」が求めているのは長期で資産を増やすことであり、そのためのアドバイスであれば十分に付加価値となり得る。その対価を自らの資産残高に応じて支払うことにも、合理性があるというわけだ。

しかも、フィーベース・モデルでは顧客の資産が増えれば販売会社のフィーも増えるため、顧客と販売会社とが同じ方向を向けるというメリットもある。それに対して販売手数料の場合は、顧客の資産残高ではなく、売買の回数が増えれば手数料が増えるわけで、利益相反の関係になりやすいのは否めない。