「減らさない」ように進化したバランス型、その優劣を見極めるために
篠田尚子のファンド愛 4

「減らさない」ように進化したバランス型、その優劣を見極めるために

  • 公開日:2020.06.10

Editor's Eye

コロナショックで多くの投資信託が基準価額を下落させた中、相対的に下げを抑制できていたものもある。バランス型ファンドのうち、可変配分型と呼ばれるタイプがそれだ。ただし、その全てが有効だったわけでもないことから、見極めに当たって必要なこと、さらには選択の障壁となっている日本の投資信託市場の課題を、世界の投資信託をウォッチしてきたファンドアナリストの篠田尚子氏が指摘する。

投資信託という金融商品は、時代の流れとともに進化を続けてきた。この過程には、資産運用業界をとりまく規制緩和の動きや技術革新だけでなく、投資信託の運用を担う運用会社の努力があることも忘れてはいけない。多様化する投資家のニーズに応えるべく、世界中の運用会社が日々知恵を絞り、困難なマーケットに立ち向かい、新商品を生み出している。

筆者がファンドアナリストとして世界の投資信託市場を見てきた中で、ここ十数年の間に最も進化したと感じるのは、いわゆるバランス型の投資信託である。具体的には、資産配分を機動的に変更させる、可変配分型と呼ばれるタイプの商品だ。

海外では一般的にマルチアセット運用と呼ばれるこの運用手法は、株式や債券などの伝統資産のほか、ファンドによっては金や不動産などの非伝統資産(代替資産=オルタナティブ資産)も組み入れ、市場環境に応じてリスク管理をしながらリターンの創出を目指す。よりシンプルにいうと、運用資産を「大きく増やす」ことよりも、「減らさない」ことに重きを置いて運用を行う点が特徴だ。

こうした運用手法は、2000年代後半の世界的な金融危機以降、いわゆるプロ(機関投資家)の世界で多く取り入れられるようになり、日本では2012年ごろから個人向けの投資信託として設定が相次いだ。

プロではない、一般個人の資産運用・資産形成においても、資金の性格によっては最初からリスクを抑えた商品を取り入れたほうがよいケースはある。代表的なのは、退職金や教育資金など数年以内に使うことが決まっている資金だ。あるいは、相続によって受け取った資金など「減らしたくない」という明確なニーズがある場合も、最初から「減らさない」ように設計された商品を選んだほうがよいだろう。

実は足元のコロナショック下で、この可変配分型のバランスファンドは、「8資産均等型」に代表される固定配分型のバランスファンドと比べて底力を発揮している。もちろん、可変配分型バランスファンドの運用がすべてうまくいっているかというと決してそういうわけではない。残念ながら、コロナショックが起きるよりも前からすでに「瀕死」状態にあったファンドも少なからず存在する。

とはいえ、特に今回、株式、債券、さらには代替資産であるリートも短期間のうちに大きな下落に見舞われた中、底堅いパフォーマンスを発揮したファンドは具体的に何が違ったのか。その答えは、1)迅速な判断と対応、2)適度なリスクテイク、3)オルタナティブ投資の活用という3つのポイントに集約することができる。順番に見ていこう。

迅速な判断と対応

まず重要なのは、初動で迅速に市場環境の変化を察知し、機動的に資産配分を調整できたかどうか、である。特に今回のコロナショックの大きな特徴は、世界株式がリーマン・ショック時をはるかに上回るスピードで下落したことにある。株価水準がピークを迎えつつあった2月初旬から中旬の時点で株式の配分を引き下げ、ある程度保守的な運用に切り替えていたファンドはその後の更なる下落局面で持ち堪えることができたが、3月に入ってから配分変更を行ったファンドの中には「手遅れ」状態となったものも少なくない。

適度なリスクテイク

初動の判断を見誤ると、その後も対応が後手に回ってしまい、今度は市場の反発局面についていけずに機会損失が発生しやすくなる。例えば、アセットマネジメントOneが運用する「投資のソムリエ」は3月初旬に株式の配分を限りなくゼロに近い水準まで引き下げたが、その後4月末には再び3割まで引き上げている。これにより、3月末以降の市場の反発局面で着実にリターンを確保することができた。リスク管理に重点を置いているとはいえ、資産配分の面で保守的になりすぎることなく、獲得できるときにリターンを獲得しておくこともまた重要なのである。

オルタナティブ投資の活用

前述の「適度なリスクテイク」にも共通することだが、リスク回避のために債券の比率を極端に引き上げても、世界中が低金利状態の今、もはや債券で安定したリターンを見込むことは難しい。そこで重要な役割を果たすのが、非伝統的資産=オルタナティブの活用である。代表的なのは金や不動産(リート)だが、株式ロングショートなど、市場の上昇・下落に左右されない絶対リターンの確保を目指す投資戦略もオルタナティブに含まれる。例えば、ピクテ投信投資顧問が運用する「ピクテ・マルチアセット・アロケーション・ファンド(愛称:クアトロ)」は、ポートフォリオの約2割をオルタナティブ投資に振り向けており、重要な収益源として機能している。

参考までにバランス型ファンドの運用実績について補足をしておくと、固定配分型の「8資産均等型」は今年2月21日の高値更新後、3月19日に底をつけるまで約26%下落した。その後、4月以降は株式市場の反発もあり、緩やかに基準価額を戻しているが、短期間のうちに急落したことが今も尾を引いている状態だ。

対して、可変配分型の「投資のソムリエ」と「クアトロ」は、高値更新後の下落幅を「ソムリエ」で-4.4%、「クアトロ」で-9.2%に抑えられており、実に「省エネ」な運用をできていることがお分かりいただけるだろう。

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著者

篠田 尚子 楽天証券経済研究所 ファンドアナリスト
篠田 尚子
慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【最新版】本当にお金が増える投資信託は、この10本です。』(SBクリエイティブ)。
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