在住歴20年FPが語る、「アメリカの資産運用」本当のトコロ

「アメリカでは資産運用が当たり前」なイメージの裏側にある格差とは

  • 公開日:2020.07.20

Editor's Eye

日本の家計におけるリスク資産の比率は約15%と依然低いまま。そんな日本との対比でよく登場するのがアメリカです。家計におけるリスク資産の比率は50%を超え、「アメリカ=資産運用がしっかり根付いている国」というイメージを多くの人が抱いているのではないでしょうか。しかし、実際のところアメリカの人々の投資行動には「格差」も見え隠れするのだと、アメリカ在住のファイナンシャルプランナー岩崎淳子さんは言います。そこには、日本人にも共通する課題があるようです。

資産の大半が預貯金に偏りがちな日本に比べ、アメリカではみな投資に積極的で資産運用が進んでいるとよく言われます。しかしながら、実はアメリカの中でも投資に対する知識や姿勢にはかなりのバリエーション、つまり「格差」があるように感じています。

今回のコロナ危機はアメリカの格差社会をあらわにしました。人種においては、黒人の死亡率は白人やアジア人のそれに比べると約2.3倍。またニューヨーク州のデータですが、平均年収において最も低いレベル(数万ドル程度)の地域での感染率は、最も高いレベルの地域($10万以上)の2倍以上という差です。英語で“live paycheck to paycheck”という表現がありますが、低所得者層は手にした給料(paycheck)で生活を回すのに精いっぱいで、入ってきた給料はすぐ出て行き、次の給料をもらうまでお金の余裕などなく、健康保険に加入したり、ましてや貯金や投資などにはとても回せないという現実があります。

このような人々は健康保険がないため、普段の身体面でのメンテナンスもおろそかになりがちで、慢性化した持病持ちも多く、調子が悪いからといって仕事に行かねば収入が途絶えるから休めない。そのうえ、狭いエリアに密集して住んでいるので感染がすぐ広がる……ということになります。一方で、専門職に就いている高所得者層は、家でのオンラインワークにすんなり切り替えることができ、収入に大きな影響があることもなく、多少の不便はあるものの、生活がひっくり返るようなことはないまま暮らせています。

この哀しい格差は生活のあらゆる側面で連鎖的に存在しますが、資産運用も例外ではありません。

格差の原因はあまりに複雑で簡単に説明のつくことではないかもしれませんが、1つ大きな要素は“知識の差”のように思います。資産運用は知っていれば、誰だってある程度はできることなのに、知識がないために全く考えもつかない、あるいは適切な判断ができず、なかなかポジティブな循環に入っていけない、ということがあるように感じるのです。そしてこの格差は単に白黒という二極化ではなくて、それをつなぐ直線上にあらゆるグラデーションのグレーが存在しているように感じます。

さらに話を資産運用にフォーカスしていきましょう。所得には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは勤労所得で労働して得る所得で、もう1つは財産所得といい資産がお金を生んで生じる所得です。ちなみに、これには日米で大きな差があり、日本では勤労所得と財産所得の比率が8:1で、アメリカはこれが3:1となっています。頑張って働いて100万円稼ぐ間、日本では資産が12.5万円しか利回りを生んでくれませんが、アメリカでは33.3万円を生むことになります。

ただこれは全日本、全米平均であり、たとえアメリカであっても先ほどの“paycheck to paycheck”で生きる人々の場合は、100万円に対し0円の財産所得です。

アメリカの株式投資に対する格差は甚だしく、富裕者トップ10%が全米株式の81%を保有し、中間層(ボトム20%からトップ20%までにあたる中間の60%)、言い換えれば「普通の人々」が所有している株式は全米市場の8%以下というデータもあります。給与所得が大きければ余剰金も大きく、ますます投資がしやすくなり、市場成長による運用益、つまり財産収入も大きくなる一方で、給与所得が少なく投資など思いもつかない人は、一生財産所得を享受することなく働き続けるしかないという図が見えてきます。

続いて、401(k) ※を切り口にして、アメリカにおいて「知識の差がいかに投資行動での差につながるか」をご紹介したいと思います。アメリカでは、1980年に所得税非課税で積み立てられる401(k)が始まり、かれこれ40年の歴史があります。401(k)は、普通の人が普通に働きながら、株式市場への投資によってその利益を享受していくことを身近にしたシステムでした。たとえばこの401(k)一つをとってみても、知識による格差が見え隠れします。4つのグループで見てみましょう。

※401(k)……アメリカの確定拠出型年金制度。雇用主が福利厚生の一部として提供するもので、加入は雇用主を通して行う。掛け金は従業員の給料から、また多くの場合、企業からも従業員の拠出額に応じて一定額拠出される(マッチング・プログラム)。掛け金は、株式や投資信託などの運用方法から従業員が自由に選択して、運用指図を行う。

まず1つ目は、401(k)を全く使えないグループです。定職がない、あるいは勤めている会社が401(k)を提供していないケースです。401(k)が使えない場合でも、金融機関で個人的なリタイヤメントプログラムを開くことができるのですが、このグループはそのような知識もない場合が少なくありません。リタイヤメント準備は、国の提供するソーシャルセキュリティー年金だけが頼りとなりますが、それだけでは十分ではない場合も多く、働き続けていくしかない人々です。

2つ目は、401(k)があるのは知っているけれど、どうすればいいのかわからないため、なかなか始められないというグループです。このような人々は15年前までは割と多かったのですが、2006年に法律が制定されて、デフォルト拠出比率(401(k)に給料の何%を積み立てるかの率。通常は本人が選ぶ)を企業側が設定し、本人がそれに反対しない限り自動加入させることができるようになりました。これに伴い社内教育なども徐々に充実し、401(k)加入率が向上することになりました。ただデフォルト率だけではリタイヤメント準備が十分でない場合も多く、その辺りは課題として残っています。

3つ目のグループは、401(k)があって一応加入しているものの、実際投資せよと言われても何をどう選んでよいかわからないので、結局投資になっていないという人達です。401(k)はお金を積み立てるだけでその分所得税控除になりますから、たとえ投資をしなかったとしてもそれなりの意味はあります。ただ、長期的に増やすとなると投資が必要なのですが、いったいどの投資ファンドを選べばいいのかわからず、“お金はそのまま口座にあるだけ”というグループです。この問題については、2006年以降、爆発的にシェアを伸ばしたターゲットデートファンドが解決に大きく貢献しました。

希望する退職年(ターゲットイヤー)を選択すれば、年齢に応じたリスクレベルで各種インデックスファンドを自動的に組み合わせてくれ、その後も経年によるリスク低下調整を自動で行ってくれる、この画期的な“おまかせファンド”は今や多くの401(k)での定番ファンドとなっています。

そして最後。4つ目のグループは、これらすべてに関して包括的な知識を持っており、投資運用について積極的な姿勢で取り組んでいるグループです。401(k)へのデフォルト参加だけにとどまらず、その他利用できる投資プログラムなどについても学び、どう積み立ててどう増やすかについて指針を持っています。そのため、市場が乱高下するようなことがあっても急いで売ってしまったり、流行に振り回されて注目ファンドやビットコインに多額を投じたりせず、長期投資への落ち着いた姿勢をとることができるグループです。

***

システムを知っているか、知っていないかで行動に差が生まれ、投資においては長期になればなるほどその差が拡大していきます。

こうしたアメリカで起きている“格差”を見てきて、投資は決して博打ではなく、知識に基づき安心して行うすべがあることを伝えるとともに、誰でも最初は“ちょっと怖い”ので敷居を低くしてあげる工夫が必要と考えます。そしてそれはアメリカだけでなく、今なおリスク資産への抵抗が少なくない日本の多くの人においても同じように必要なのではないでしょうか。

著者

岩崎 淳子 ファイナンシャルプランナー
岩崎 淳子
「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。
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