非効率な構造を根本から変える――大原啓一氏の掲げる日本版TAMPとは
資産運用ビジネスを変革する、新時代の先駆者たち 2【前編】

金融の構造を根本から変える―日本資産運用基盤・大原啓一氏の挑戦

  • 公開日:2020.08.07

Editor's Eye

テクノロジーと斬新な発想で資産運用ビジネスの変革を促す、新たなプレーヤーたちへのインタビューシリーズの第2回。今回は、資産運用ビジネスのサポートを通じ、金融業界の構造に変革をもたらしている日本資産運用基盤グループの大原啓一氏が登場。自前主義、専門人材の役職定年といった日本の金融機関特有の非効率性と欧米諸国との違いから着想を得たという同社の事業の内容、創業の想いなどを伺った。

大原啓一氏が代表を務める日本資産運用基盤グループの事業は、日本版「TAMP(Turnkey asset management platform)」と呼ばれる。TAMPとは「スイッチを入れる(Turnkey)だけで資産運用事業が開始できる」よう、資産運用ビジネスを行う企業を全面的にサポートする事業形態のこと。同社でも金融機関が新規事業、中でも資産運用ビジネスを行う際の事業モデルの設計や運営までを支援する。

TAMPは欧米では広く普及している事業形態だが、日本においては日本資産運用基盤グループが初と言ってもいいようだ。

もっとも、金融ビジネスのサポートと聞くと、個人投資家には関係ないようにも思える。しかし、大原氏が同社を設立したきっかけ、さらには提供するサービスを通じて成し遂げたいことを聞くと、投資家との接点も見えてきた

この人に聞きました

大原 啓一

日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長

2003年東京大学法学部卒。2010年ロンドンビジネススクール金融学修士課程修了。野村資本市場研究所を経て、2004年に興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。日本・英国で主に事業・商品開発業務に従事。同社退職後、マネックスグループ等から出資を受け、2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業。2016年1月から2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年5月に日本資産運用基盤を創業し、代表取締役社長に就任。

まずは、同社設立のきっかけから見ていきたい。

大原氏自身は運用会社など資産運用業界での経験が長く、そのうち20代から30代にかけての約8年間はロンドンに赴任していた。ヨーロッパにおける金融ビジネスを学ぶ時間が多かったわけだが、日本に帰国後、改めて疑問に感じたのが日本企業の「自前主義」だったという。

「ヨーロッパには社員数が数人の運用会社やヘッジファンドなど、比較的小規模な金融事業者が無数にあります。いずれも自分たちの価値はマーケットを分析して投資判断を行うことだと考えているため、その強みのみに集中し、システム開発やバックオフィス業務などは外部リソースを活用することが前提になっています。金融ビジネスの立ち上がりも早く、トライ&エラーがしやすいため、そこから良いビジネスやサービスが生まれる好循環も印象的でした」。

だからこそ、日本に帰国後、自ら運用会社を立ち上げるなど日本の金融ビジネスに本格的に触れた大原氏は、「システムやバックオフィス業務までを自社内で抱えることに驚いた」という。「日本の金融ビジネスは自前主義が前提なので、本来の強みに集中できず、非効率な部分が多いというのが最初の問題意識でした」。

フィンテック関連のスタートアップなど、日本でも新興企業においては外部のリソースを活用して事業を立ち上げるケースが徐々に増えてきている。しかし、銀行をはじめ国内の多くの金融機関には自前主義が文化として根付いており、そうした機会はあまりない。その違和感に気付けたのは、ヨーロッパでのビジネス経験が長かった大原氏だからだろう。

自前主義の典型的な事例として挙げられるのが、銀行ごとに設置されているATMだ。「日本では至るところに、各銀行のATMがありますが、本来はコンビニのATMが1つあれば事足りてしまう。ATMの設置だけでも、平均すると数億円単位のコストがかかっている現状があります。この余分なコストを、例えば窓口の人員を増やし、そのレベルアップのために使用すれば、お客さまのためにもなるはずです」。

さらには、専門人材の役職定年なども、非効率な部分の一例だという。「特に大手金融機関の場合、人材の新陳代謝を促すなどの目的から50歳を超えると管理職から外され、これまでの経験を活かせない全く異なる部署に異動になることもあります。これなどは、まさにリソースの無駄遣いではないでしょうか。欧米諸国では年齢に関係なく、その人のスキルが最も活かせる場所に人員を配置するのが当たり前です」。

こうした金融業界の非効率な構造を、根本から変えていきたい。その想いが、日本資産運用基盤グループの設立の原動力となったわけだ。

日本資産運用基盤グループでは、自社でシステムなどをつくって提供するわけではなく、「モノを持たない」事業運営を行っている。「私たちのビジネスはいわば『オーケストレーター』で、オーケストラの指揮者が異なる楽器の演奏で調和をもたらすように、各金融機関のリソースを目利きし、それをつなぎ合わせる役割だと言えるでしょう」。

例えば地域銀行であれば、地域に根付く中小企業との関係づくり、さらには窓口の接客などは得意分野かもしれないが、自己資金での有価証券運用や個人向け資産運用サービスの提供等、資産運用ビジネスに関しては不得手なケースもある。その穴を補うためには、運用会社が持っているノウハウや金融関連機能を提供するといった選択肢もあり得る。その際、間に入って地域銀行と運用会社をつなぎ合わせる役目を、日本資産運用基盤グループが担っているわけだ。

ただ、この役割を果たすためには、機能を提供しても良いと考える金融機関の協力が不可欠となるのは言うまでもない。しかし、設立当初は構想自体に賛同してくれる人は多かったものの、実際に協力までしてくれるところは少なかったという。そのため当初は提携先の開拓に奔走したそうだが、2年目にしてようやく大手金融機関の協力を得ることができた。それが、みずほ信託銀行との業務提携だった。

「みずほ信託銀行が持っている投資信託事務機能を提供できるようになり、ようやく事業が回り始めました。さらに大手金融機関の協力を得たことで企業としての信用力も上がり、以降は顧客や提携先金融機関等も右肩上がりに増えてきています」。

今後もさらに提携先を増やしながら、金融業界全体をサポートするという壮大な目標を掲げる大原氏。後編では、現在の金融機関に必要なビジネスモデルをどのように考えているのか、資産運用ビジネスの在るべき姿とはどのようなものなのか、などといった点にも迫ってみたい。

著者

Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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