個人所得・個人消費支出(PCE)統計から見える米国経済好調の理由

個人所得・個人消費支出(PCE)統計から見える米国経済好調の理由

  • 公開日:2020.08.17

Editor's Eye

国内外で感染症拡大が進む一方、3カ月以上も上昇基調が続く世界の主要株式市場(7月22日時点、日米独の主要株価指数の動きを想定)ですが、これから重要になるのは目先の相場に一喜一憂することではなく、中長期の見通しであるはずです。運用会社のストラテジスト、エコノミストなどに、ある経済指標に基づいて今後のマーケットの行方を探ってもらう連載企画の第2回では、アセットマネジメントOneのストラテジスト、服部純朋氏にコロナ禍にありながら好調が続く米国の経済・株式市場について解説してもらいます。

全米経済研究所(NBER)は、2009年6月に始まった128カ月に及ぶ米国経済の拡大局面は今年2月で終了し、同国経済は景気後退入りしたと発表した。景気後退入りは、経済学者らで構成される同機関の景気循環日付委員会が、経済活動の落ち込みの深さや期間、拡がりを重視した上で決定している。

経済活動の動向を把握する重要指標の1つに実質GDPがあるが、その概ね7割を占める個人消費の動向を包括的に捉える指標としてNBERが挙げるのが、米商務省公表の個人所得・個人消費支出(PCE)統計だ。NBERによれば、コロナ禍の影響により、同指標は2月にピークに達したと判断された。


5月の個人消費支出(2020年7月22日時点)は、名目ベースで前月比大幅増加した。同支出は、コロナ禍による移動制限措置などの影響で3月、4月と2カ月連続で大幅に減少したが、5月は反転上昇した。米政府が施行したコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)に基づく直接現金給付や、コロナの感染拡大に伴う外出制限措置等が緩和され、消費機会が増えたことによる影響が反映された格好だ。

カテゴリー別に見ると、耐久消費財では自動車や娯楽用品が好調だった他、非耐久消費財では大幅な落ち込みが続いていた衣料等が大幅に増加した。サービス消費では、外食・宿泊、運輸などが大きく反転上昇している。

一方、同個人所得は、4月の急増から減少に転じた。雇用情勢の改善に伴う雇用者報酬の増加や、失業保険給付の増加が所得の押し上げに寄与した一方で、CARES法に基づく直接現金給付の計上額の規模が前月比縮小したことが下押しした。

このように米国の個人消費や所得は、経済活動の再開に伴い、これまで抑制されていた需要の反動増が発現したが、政府による救済措置に伴う所得移転に支えられている側面が大きいのである。

また非農業部門雇用者数は5月に劇的な改善を示し、6月は改善ペースが加速したが、政府の給与保護プログラム(PPP)による融資で多くの企業が従業員の解雇を抑制できているとみられ、政策支援の恩恵を受けた結果だと考えられる。実際、米連邦準備理事会(FRB)が6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示した失業率の見通しは、徐々に低下していくと予想されたものの、2022年末でも長期均衡水準を上回ると見込まれており、労働市場の回復は緩慢との見方だ。したがって、米国経済を巡っては、これまでに実施された経済政策などの下支え効果が一巡した後は、労働市場の緩慢な回復が重しとなる可能性に留意が必要とみている。

雇用や所得支援のための政策が今後も継続していくのかを判断する上では、追加の経済対策が実施されるかどうかが注目される。米議会予算局(CBO)によれば、コロナの感染拡大を受けた大規模な経済対策の実施に伴い、連邦政府の財政赤字は2020年度に3.7兆米ドルとすでに巨額の財政赤字が見込まれている。追加的な経済対策は財政のさらなる悪化懸念を想起させ、悪い金利上昇圧力を生じさせる可能性があるため、一定の警戒が必要だ。

しかし、FRBのパウエル議長は、金利は長期間にわたりゼロ%近辺にとどまる必要があるとの認識で、FRBは長期金利の抑制に向け債券の買い入れを継続する方針だ。同議長は、財政悪化を懸念するのではなく、今は歳出増で経済の再生を優先すべきだとの立場で、議会に対して追加の財政支援策を求めている。家計への財政支援が今後剥落することが懸念される中、今後の追加的な財政支援策を巡る動向が注目される。

こうした中、金融市場は、米国で感染第二波への警戒感が高まっているものの、各国中央銀行・政府による金融緩和策や積極的な財政政策の実施に伴う世界景気の下支え期待などから、堅調に推移している。S&P500種株価指数は、2月19日に終値ベースで史上最高値を付けて以降、コロナの感染拡大が欧米で進行する中で下落基調に転じ、3月23日に今年の安値を付けるまで、わずか1カ月足らずの間で約34%下落した。

その後は、FRBの大規模金融緩和策や、米政府の大型経済対策実施に伴う景気下支え、世界的な経済活動再開への期待が一段と強まったことなどから、上昇基調となった。7月21日時点の株価水準は、3月23日対比で45%程度上昇し、年初の水準に戻した。今回の株価調整は、極めて短期間に株価が急激に落ちた一方で、その戻り方のスピードも速いというのが特徴だ。経済や企業業績が早期に正常化するとの見方を反映した動きとみられる。

もっとも、米国株式市場全体(S&P500種株価指数)は総じて堅調ながらも、セクター別に見た場合の相対パフォーマンスは異なる。3月下旬以降の株式市場の戻り局面において、情報技術や一般消費財、ヘルスケアといった、コロナ禍で需要増が見込まれるセクターは市場全体に対して堅調である一方で、資本財やエネルギーは劣後している。情報技術では、あらゆるコミュニケーションのオンライン化(テレワーク、遠隔診療、オンライン授業、商談など)の進展が見込まれ、オンラインコミュニケーション技術や通信セキュリティー技術の向上などが期待される。一般消費財は、コロナの感染拡大により外食や実店舗型小売りの減少による影響が懸念される一方で、小売業でのオンライン販売の好調さが支えとなっているもようだ。キャッシュレスなど非接触に対応した技術の利用活性化なども期待され、小売業を巡っては、デジタル化の流れが従来にも増して進むと考えられる。

新型コロナウイルスのワクチン開発は、治験が前倒しで進むなど明るい兆しも見られているが、実用化や大量供給には、依然として時間を要するとみられる。こうした中、感染拡大を防止する観点から、社会的距離確保の措置が継続すると想定される中、新しい生活様式の実践の恩恵を受けるとみられるセクターの株価は堅調に推移する可能性があろう。ただし、米国株式市場全体が織り込んでいる経済や企業業績が早期に正常化するとの見方は、追加的な財政支援策が鍵を握るとみられ、注視が必要である。

著者

服部 純朋 アセットマネジメントOne 運用本部調査グループ ストラテジスト
服部 純朋
大阪大学大学院修了後、2007年第一勧業アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)入社。運用企画部、債券運用部を経て2012年より現職。国内外の経済・金融政策および金融市場動向の分析を担当し、主に投信向け勉強会・セミナー、レポート等を通じた投資情報の発信を行う。
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