高利回りに目を奪われがちなトルコリラ建て債券は、通貨安にも留意を
金融ジャーナリスト・鈴木雅光が読み解くニュースの本質 3

高利回りに目を奪われがちなトルコリラ建て債券は、通貨安にも留意を

  • 公開日:2020.09.01

Editor's Eye

外国為替市場では、主要通貨に対してトルコリラの下落が続いています。トルコリラ建ての債券や投資信託は高利回りが魅力である一方、このまま下落が続けばトータルで損失が出てしまう可能性もあるでしょう。なぜトルコリラはここまで売られてしまっているのか。金融ジャーナリストの鈴木雅光氏が、その背景に切り込みます。

トルコリラ建ての債券などを扱っているインターネット証券会社にとっては、ちょっとばかり不都合な事実かもしれません。外国為替市場において、トルコリラの売りに歯止めが掛からなくなっています。6月から7月にかけて、1トルコリラ=15円台で推移していましたが、8月に入って下げ圧力が強まり、8月18日には1トルコリラ=14.226円まで下落しました。

過去の値動きを見ても、トルコリラは円や米ドルなど主要通貨に対して下落の一途をたどってきました。だいぶ前に遡りますが、2007年10月12日のトルコリラ/円は、1トルコリラ=99.01円でした。そこから12年と10カ月を経て、トルコリラは対円で85.63%も下落したことになります。

一方で、最近は一部のインターネット証券会社ではトルコリラ建ての債券を積極的に販売する動きがあります。

例えば、「2030年8月26日に償還されるトルコリラ建てゼロクーポン債の利回りは、税引き前で10.74%。約10年後に外貨ベースの投資金額が2.7倍になって戻ってくる」などという宣伝文句が表記されていたりするわけですが、果たしてそううまくいくのでしょうか。

8月8日の日経新聞には、「オフショア市場でトルコリラを調達するためのコストであるオーバーナイトスワップ金利が8月4日、1000%超まで上昇した」という記事が掲載されていました。

オフショア市場とは、国内金融市場とは別に設けられている、規制や税制が優遇された金融市場のことで、主に非居住者が資金調達を行っています。トルコのオフショア市場とは非居住者、つまりトルコから見た外国人投資家がトルコリラを調達するために設けられている、規制や税制が優遇された金融市場のことです。

また、オーバーナイトは「翌日物」のことで、貸し借りの期間が1日という超短期の金融取引です。

オフショア市場で1日の金融取引に適用される金利が1000%にまで跳ね上がったのは、トルコの通貨当局が外国人投資家によるトルコリラの資金調達に厳しい制限をかけてきたことを意味します。その目的は、トルコリラの通貨価値を守ろうとしているからです。

トルコ経済は一般的に輸入依存度が高いと言われています。2018年の総貿易額の数字を見ると、輸出が1680億ドルで輸入が2230億ドルです。また、古いデータで恐縮ですが、例えば2016年のエネルギー輸入依存度は75%にも達しています。

輸入依存度の高い国にとって自国通貨安は、国内のインフレにつながります。実際、2020年6月におけるトルコの消費者物価指数は、前年同月比で12.62%の上昇となりました。過去を遡れば、2018年10月の消費者物価指数上昇率が25.24%でしたから、それに比べれば落ち着いているとも言えますが、2ケタの物価上昇率は国民生活に悪影響を及ぼす恐れがある水準です。

もちろん、物価上昇の要因は他にもありますが、トルコリラの下落がインフレに影響しているのは間違いないところでしょう。だからこそ、トルコの通貨当局はトルコリラの通貨価値を守るため、オフショア市場におけるトルコリラの供給を極端に絞ることによって、オーバーナイト金利を1000%にまで引き上げたのです。

それにしても、トルコの通貨当局はなぜオフショア市場の資金供給を極端に絞ったのでしょうか。

オフショア市場は実需の資金調達ニーズもありますが、同時に投機筋が特定通貨を売り浴びせるために、その対象となる通貨を調達するケースもあります。つまり投機筋は、将来的にトルコリラはさらに下がるというシナリオのもと、オフショア市場で調達したトルコリラを外国為替市場で売り浴びせている可能性があるのです。それをトルコの通貨当局は分かっているので、オフショア市場でトルコリラを調達しにくくするため、資金供給を極端に絞ったと考えられます。

しかし、自国通貨の防衛には限界があります。本来、トルコリラ安が進まないようにするには、トルコの通貨当局が外貨準備から引き出した外貨を売って、トルコリラを買うというオペレーションを行いますが、外貨準備は無尽蔵ではありません。つまり自国通貨防衛のための自国通貨買いは、どこかで必ず限界を迎えます。この限界点をある程度見通すことができ、かつ売り崩せるだけの資金力があれば、投機筋は一国の通貨当局が相手でも戦いを挑んできます。

もっと言えば、インフレ国の通貨は理論的にも売られます。インフレは通貨価値の下落と同義だからです。12%のインフレ率であるトルコの通貨が、デフレ大国日本の通貨である円に対して売られるのは、自明の理と言ってもよいでしょう。それは、トルコがインフレを抑え込む日まで続きます。

確かに表面上、10%を超える利回りの債券は魅力的に見えるのかもしれませんが、一方で通貨価値の下落が進み、最終的にトントンで終わってしまうことも十分に考えられます。高金利通貨に投資する際は、常に通貨価値の下落リスクと背中合わせであることに留意しておきましょう。

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著者

鈴木 雅光 金融ジャーナリスト
鈴木 雅光
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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