一括?分割?退職金のもらい方、企業年金のプロが自身の実例で解説

一括?分割?退職金のもらい方、企業年金のプロが自身の実例で解説

  • 公開日:2020.09.16

Editor's Eye

定年退職なんてまだ先の話……と思っていても、忙しく過ごしている間に目前に迫っていたりするものです。「退職金」で調べてみると、受け取り方一つで損も得もする、といった情報をよく目にしますが、流通系大手企業の企業年金基金に長年勤務していたFPの岡田晃明氏は「目先の損得にとらわれると、より良い選択ができない場合がある」と指摘します。

企業年金の現場で受けるご相談で圧倒的に多いのが、「退職金は一時金(一括)で受け取った方がいいのか、年金(分割)で受け取った方がいいのか」というお問い合わせです。

皆さん、いざ退職するときになって考えるのですね。どっちが得なのか、と。

そもそも、「退職金」には大きく分けて

1 退職一時金制度
2 確定給付企業年金制度(DB)
3 確定拠出企業年金制度(DC)

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の3種類があります。

1は会社が準備する退職一時金で、一般的に年金としては受け取れません。一方、2、3は一時金で受け取るか、年金で受け取るかを選択できる制度です。ここでお話しする「退職金はどう受け取る?」は、2と3に関するものです。

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2は、企業年金基金などに積立をして積立金を保全する制度で、自分が受け取れる退職金の計算方法があらかじめ決まっていて、退職時に勤務中の給与などを基礎として計算されるものです。勤続年数が一定年数以上の人は、一時金か年金を選択することができます。

一方で3は、掛金を会社が出して運用は自分で行うもの。決まっているのは掛金の金額なので、資産運用の結果によって受け取れる総額は変わってきます。60歳以降に、一時金で受け取るか、年金で受け取るかを選択できます。よく聞くiDeCo(個人型確定拠出年金)の企業年金版と言えばよいでしょうか。

さて、「一時金(一括)か年金(分割)か、どちらが得か」というご質問ですが、私は「損得はありません」と回答しています。

一般的に、「退職一時金は税制が優遇されているのでほとんど税金がかからないが、年金にすると税金や社会保険料が引かれてしまうので、一時金で受け取った方が得だ」と言われることが多いのは確かで、実際に計算してもそうした結果が出ることが少なくありません。

ただ、前提となる勤務先の年金制度設計をはじめ、一時金と年金の割合のパターンや、退職後継続雇用制度等給与所得や国の年金などの所得等、人によって条件が大きく異なり、一概に損得を明確にするのは実は簡単ではありません。

また、退職金の役割を改めて考えると、目先の損得よりも重要視すべきポイントがあるのです。

 退職金の役割とは、会社を中途退職する場合は次の仕事が見つかるまでの生活資金のような性格が強い一方、定年まで勤めあげた人にとってはまさに老後の資金となります。

近年になって「公的年金だけでは老後の生活を支え切れない」という議論が盛んになり、企業年金を老後生活の柱の一つにしようという機運からさまざまな制度改革が進み、今では企業年金(特にDC)の目的は「老後の資産形成」という一点に絞られつつあります。

この機能を考えたとき、その損得を論じることにどれだけの意味があるでしょうか。

一時金で受け取る = 一度に多額の資金を手にできる
年金で受け取る = 老後の一定年数、安定した収入を得ることができる

このように、まず目的が違います。さらに、お金の価値というのは時間軸で変わってきます。大切なのは、「どの時点に、なにで、あなたの生活費を賄うのか」ということです。

元々、貯金を蓄えていて資産に余裕があるなら、一時金で受け取って現役引退のご褒美に使うのもよいでしょう。リタイア後の生活費を補填したい場合は、年金で受け取るほうがよいでしょう。ただ、大半の人はその両方の事情を抱えているでしょうから、どうしても一時金と年金の組み合わせを考える必要が出てきます。

一例として、私自身の「事情」をお話ししましょう。

企業年金基金に15年間在職し、その後FPとして仕事をしていますが、誠にお恥ずかしいことながら、自分自身の退職後の生活は順風満帆とは言い難い状況でした。

60歳で退職せずに継続雇用を選択することもできましたが、これまで培った知識や技能を自分で直接社会のために役立てたいという夢を追い、大胆にも独立しました。

一人息子はすでに会社員になっていますが、大学の学費が50代半ばの支出の大きなウェイトを占めていたため、定年退職時にはかなりの額の教育ローンの残債がありました。そのため、

退職金の半分を一時金で、残りを年金として受け取ることにしました。それが得だったからというわけではなく、そうせざるを得なかったから、と言ってもいいでしょう。

目先の損得で言えば、全額一時金で受け取れば退職所得控除の恩恵を受けられるので年金よりもお得だったかもしれませんが、老後の生活費のために年金を選びました。

実は、独立という道を選んだこともあり、わが家は一時、かなり厳しい局面を迎えました。定期収入が現役時代から大きく減ったことで、貯金はみるみるうちに減っていき、今受け取っている企業年金を全額一時金に変えて受け取るか、あるいは、持ち家の売却もやむなしか……と大いに悩む状況に。しかし、ここで一時金受取を選べば、言うまでもなく65歳以降はさらに苦しくなります。たとえ2~3年貧苦にあえいでも、5年後、10年後、20年後の定期的な収入源は“死守”すべき貴重な存在であると考え、一時金に頼らずとも済むように夫婦で派遣やパートの仕事を複数こなすなどしてグッと我慢で切り抜けました。実際に、企業年金にも持ち家にも手を付けなくて良かったと思っています。

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官民一体となっての「老後の生活資金の柱を企業年金にシフトしよう」という動きの中で、優遇され過ぎているという声の強い「退職所得控除」は、将来見直される可能性が高いと思っています。なぜなら、損得計算で多くの人が退職金を一時金で受け取ってしまっているからです。

マスコミでも報道されているように、国の年金は将来、現役時代給与との比率である所得代替率が50%程度になると言われています。実際、かなりの確率でそうなると私は考えています。その時に、キリギリスのように夏にエサを食べてしまうのか、アリのようにエサを蓄えておくのか――。

アリが勤勉で、キリギリスが怠け者だというのはおとぎ話の世界です。成虫となったキリギリスの寿命はたった2カ月ほど。一方、アリは女王アリを守り、将来に亘って子孫を反映させなければならず、冬にも大量のエサが必要になります。だからエサを蓄えているわけです。そもそもお互いの生き方が違います。

冬が来るのを考えず、キリギリスの真似をしてしまうアリは冬を越せません。隣の巣から情けをかけてくれる優しいアリがいればよいのですが……。

「得する退職金の受け取り方」が気になった方にとっても、大事なのは、今の時点でどれだけの資金が必要で、将来の老後にどれだけの資金があればよいのかを確認しておくことです。歌って過ごしていれば終わるほど、私たちの一生は短くないのですから。

 

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著者

岡田 晃明 ファイナンシャルプランナー
岡田 晃明
慶應義塾大学経済学部卒業。セブン&アイ・ホールディングスにおいて、イトーヨーカ堂経営政策室、営業企画室で勤務。その後、セブン&アイ・ホールディングス企業年金基金において企画担当マネージャーとして年金業務に従事。2019年2月よりマーケットメーカーズにてDCカンファレンス事業部所属、2019年6月にDCカンファレンス「どうする! 運用商品の評価と選定」を主催。現在、クオリティライフデザイン研究所主席研究員。FPとして活動中。

参考サイト
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