「働いたら損」ではなくなる!制度改正で変わる在職老齢年金の基準額
「R50」の新常識 余裕の老後は知識で築く! 4

「働いたら損」ではなくなる!制度改正で変わる在職老齢年金の基準額

  • 公開日:2020.09.25

Editor's Eye

人生100年時代において、50歳はまだまだ折り返し地点。特に、これからの時代に必要になってくるのは「働きながら年金をもらい、資産を上手に使う」という発想です。単に貯めるだけでなく、リタイア後のお金の準備も始めておきたい「R50」世代に向けて、長年マネー誌、ビジネス誌の編集に携わり、年金関連の取材・執筆を多数手掛けてきたフリーライターの森田聡子(としこ)氏が解説するシリーズ連載。第4回は、60歳以降、所得によってもらえる年金が減る「在職老齢年金」制度について、今年5月の法改正での変更点と働き方への影響を解説します。

今回は、2020年5月末に成立した年金改革関連法の中から「在職老齢年金」の話題を取り上げたいと思います。

在職老齢年金と聞くと「どんな年金がもらえるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら実際にはその逆で、一定額以上の収入のある人は年金がカットされてしまう制度のことです。

定年を迎えて継続雇用や再雇用を選んだ人の中には、出勤日数を週2~3日に減らしたり、勤務時間を抑えたりしている方が多いのではないでしょうか。60代は健康に配慮しワーク・ライフ・バランスの実現を目指すという思いもあるのでしょうが、主たる理由は先の在職老齢年金の適用を受けないためと推察します。

参考までに、現行(改正前)の在職老齢年金制度について簡単にご説明しておきしょう。

65歳未満の人が会社で働きながら(厚生年金の保険料を負担しながら)年金を受給する場合、老齢厚生年金の月額と、総報酬月額相当額(直近1年間の給与と賞与を足し算して12で割った金額)の合計が「28万円」を超えると、「超えた分の2分の1」だけ年金の支給が停止されます。例えば、老齢厚生年金の月額が10万円、総報酬月額相当額が30万円だとすると、月額6万円の年金がカットされるわけです。

65歳以上になると、年金の支給が停止される基準が「28万円」から「47万円」に引き上げられます。

しかしこの制度、近年は実態にそぐわず、“有名無実化”が進みつつあります。

厚生労働省年金局の資料によると、60代前半で働きながら年金を受給している人は2019年度末の推計値で約120万人に上り、その半数弱が在職老齢年金の適用を受けない範囲で勤務しています。

しかし、“予備軍”となる50代に目を移すと、そもそも65歳の誕生日を迎える前に公的年金が受給できるのは1961年4月1日以前に生まれた男性と、1966年4月1日以前に生まれた女性だけです(60歳以降に「繰り上げ受給」を選択した場合は別ですが)。

条件に当てはまる人は60代前半に「特別支給の老齢厚生年金」がもらえますが、受給期間は1~5年と、生年月日によって大きく差が出てきます。

今の50代にはむしろ「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れない人のほうが多いわけで、見方を変えれば、60歳になっても在職老齢年金を気にせず働けるということです。

続いて65歳以上の在職老齢年金ですが、65歳以降も月額ベースで47万円の収入を得ている人となると、企業の役員や経営幹部などごく一部に限られます。つまり、こちらも一般人には関係のない制度ということになります。

在職老齢年金を巡る国会論議では“すったもんだ”がありました。政府は当初、65歳以上の「47万円」を廃止、もしくは「62万円」に引き上げるという案を出しました。しかし、野党から「金持ち優遇だ」と猛反発を食らい、結果として65歳以上は「47万円」のまま、65歳未満については65歳以上に合わせて「47万円」に引き上げる、という形で決着を見たのです。つまり、在職老齢年金は「65歳未満」「65歳以上」といった年齢を問わず、一律「47万円」を基準に判断されることになりました(施行は2022年4月から)。

先の老齢厚生年金の月額が10万円、総報酬月額相当額が30万円の例だと、現行制度では月額6万円の年金が支給停止になりますが、改正後はそのまま受け取れるようになるわけですから、「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる人にとってはメリット大と言えるでしょう。

さらに言うなら、これまでは在職老齢年金の適用を受けないために、あえて業務委託やフリーランスの形で仕事を請け負う人もいました。とはいえ、雇用保険や労災保険などの存在を考えると、会社員であり続けるメリットのほうが大きい可能性もあります。今回の改正により、こうした“小細工”をしないで済む方も増えるのではないでしょうか。

在職老齢年金については、こんな動きもフォローしておく必要があります。

2020年4月からは働き方改革関連法に基づき、大企業で「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)」が導入されています。中小企業は1年遅れで、2021年4月からとなります。

この流れで注目されたのが、運送会社を定年後に再雇用された労働者が、職務内容や勤務場所は変わらないのに職能給や手当、賞与などが正社員と大きく違うのは不当だとして起こした裁判の行方です。

判決は二転三転します。地方裁判所が「給与格差は不合理な差異であり、労働契約法20条に違反する」としたのに対し、高等裁判所の判決は労働者の請求を棄却するなど会社寄り。最高裁判所では、一部の手当のみ労働契約法20条違反が認められました。

重要なのは実際にこうした事例が出てきたことで、専門家の中には「今後は継続雇用や再雇用の労働者の待遇が正社員並みに改善されていくはず。会社から必要とされる人材ほど、そうした改善が早く進む」と見る向きが少なくありません。

2021年4月には改正高齢者雇用安定法が施行され、働きたいという意欲を持つ社員に対し、企業は70歳まで雇用する義務が生じます。結果として60代後半もバリバリ働く人が増えると見込まれ、となると、今度は別の角度から在職老齢年金の「47万円」が気になってきそうです。

 

 

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著者

森田 聡子 金融ライター/編集者
森田 聡子
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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