都内のオフィスはもう不要? パソナの本社機能移転とJ-REIT価格低迷の意味
金融ジャーナリスト・鈴木雅光が読み解くニュースの本質 4

都内のオフィスはもう不要? パソナの本社機能移転とJ-REIT価格低迷の意味

  • 公開日:2020.10.01

Editor's Eye

パソナグループが本社機能を兵庫県の淡路島に移転させるというニュースが大きな話題となりました。コロナ禍でリモートワークの導入が進む中、家賃の高い東京に本社を置く意味はあるのか、そもそもこれまでのような広いオフィスが必要なのかといった議論が、今後はさらに高まってくるでしょう。J-REIT価格をはじめ投資にもさまざまな形で影響してくる都内オフィスビルの需要の先行きを、金融ジャーナリストの鈴木雅光氏が探ります。

人材サービス大手のパソナグループが、本社機能を段階的に兵庫県の淡路島に移転させることを発表しました。新聞報道によると現在、東京本社では営業部門やグループ企業など約4600人が働いていて、このうち管理部門やシステム部門の人員約1800人のうち、1200人ほどを淡路島に移転させるとのことです。

この件が報道されてから、ツイッターでは「淡路島」がトレンド入りし、さまざまな意見が飛び交いました。「英断」「コロナ時代に相応しい働き方」という好意的な受け止め方もあれば、「うまくいっていないパソナの淡路島事業の下支え」とか「リストラの一環」といったネガティブな受け止め方もあります。

事の是非はともかくとして、東京に拠点を構える企業がオフィス戦略を見直し始めたのは事実のようです。

『月刊総務』という、日本で唯一の総務専門誌が企業の総務担当者にオフィスに関するアンケート調査を実施しました。

それによると、新型コロナウイルスによってオフィスの「見直しをした」という回答が26.7%、「見直しを検討している」という回答が39.9%になりました。つまり66.6%がすでに見直したか、これから見直す方向で検討していることになります。

この66.6%を対象にして、オフィスの見直しについて「実施している内容、検討している内容は何か」を聞いたところ、見直しを実施した企業においては、「専有面積の縮小」が30.9%で最も多く、「拠点の分散化」と「コワーキングスペースやレンタルオフィスの契約」が同率で14.8%、「拠点の集約」が12.8%、という順番になりました。また、オフィスの見直しを検討している会社では、「専有面積の縮小」が56.2%、「コワーキングスペースやレンタルオフィスの契約」が30.6%、「拠点の分散化」が21.5%、「拠点の集約」が14.9%となっています。

このアンケート調査のサンプル数は303件なので、これらの数値はあくまでも参考程度に捉えておくべきかと思いますが、傾向として今後、都心のオフィスビルに対する需要がやや後退するのではないか、ということは見て取れます。

理由は言うまでもなく、リモートワークが普及したからです。Zoomのように誰でも使える遠隔会議システムが安価で提供されるようになり、在宅での作業が一気に可能になりました。もちろんメーカーの場合は工場など現場で働く人がどうしても必要になりますが、本社の総務や経理、人事、広報などのスタッフは、いちいち本社まで出て来なくても、遠隔会議システムとメールがあれば仕事はできてしまいます。そうなれば、非常に高い賃料を負担して、東京都内に大きなオフィスビルを借りる必要はないという経営判断が下されるのも当然でしょう。ちなみに総合エレクトロニクス企業の富士通は7月、今後3年を目途に国内のグループ企業を含めてオフィス面積を半減させることを発表しています。

この手の動きは今後、広がっていく可能性が高いと思われます。人間は一度、便利を覚えるとなかなかその前の状態には戻れなくなります。リモートワークで出社しなくても良いということになれば、往復の通勤時間はゼロですし、満員電車に揺られることによるストレスも無くなります。上司の目を気にしてサービス残業に付き合わされる必要もありません。その分、自分で自分を厳しく律さないと逆に非効率になる恐れはありますが、やはりリモートワークの便利さを味わってしまうと、再び通勤地獄の状態に戻りたいと考える人は、おそらくかなり少数派になるはずです。したがって、オフィスビル需要がコロナ前の水準に戻るには、まだ時間がかかるでしょう。

一方、東京都内では現在も再開発がいろいろなところで行われており、今後もオフィスビルが大量に供給されます。

例えば渋谷では、渋谷スクランブルスクエアのうち地上47階建ての東棟が2019年11月に開業しましたが、全体が完成するのは2027年です。虎ノ門エリアでは「虎ノ門ヒルズステーションタワー」をはじめ、虎ノ門2丁目に2棟の超高層ビルが建設される予定です。東京駅周辺では、八重洲から日本橋、茅場町にかけての再開発事業が進められており、地上61階建ての高さ日本一を誇るビルが2027年に完成します。そして品川エリアでは、品川ゲートウェイ駅を中心にして2024年には超高層ビル4棟と、大型低層ビル1棟が完成を目指しています。

東京都心のオフィスビルが大量に供給される一方で、働き方が急激に変わり、オフィスビル需要が後退しつつあります。オフィスビルの先行きが厳しいことは、J-REITの価格を見ても一目瞭然で、オフィスビル特化型では最も時価総額が大きい「日本ビルファンド投資法人」の投資口価格は、2月18日が89万4000円で直近のピークでしたが、コロナショックを受けて3月19日には55万5000円まで下落しました。その後は戻しつつありますが、9月18日の投資口価格は62万円で、コロナショック前の水準を取り戻せずにいます。

一般的に不動産業界では、「J-REITの今の相場は1年先の不動産市況を占う」と言われています。つまり現在のオフィスビル特化型J-REITの価格低迷は、オフィスビルの先行きに対する懸念がしばらく続くことを意味しているのです。

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著者

鈴木 雅光 金融ジャーナリスト
鈴木 雅光
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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