今後の資産運用の在り方が変わる? 「重要情報シート」とは何なのか
金融審議会特別委員・永沢裕美子氏インタビュー【後編】

今後の資産運用の在り方が変わる? 「重要情報シート」とは何なのか

  • 公開日:2020.10.26

Editor's Eye

「老後2000万円問題」が議論を巻き起こす中、多くの人の関心を集めた金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書。その2020年版「顧客本位の業務運営の進展に向けて」がこの8月に公表された。金融機関に対してさまざまな指摘がなされている同報告書だが、今後の資産運用の在り方にも大きく影響してきそうな提言の1つが、「重要情報シート」の導入だ。金融審議会の特別委員である永沢裕美子氏の話を基に、その趣旨や想定される活用法を確認しておきたい。

前編(「老後2000万円問題」の発端となった報告書、その最新版の狙いとは?)で紹介した重要情報シートのフォーマットには、顧客から金融機関の担当者に向けた質問例が記載されている点も大きな特徴だ。例えば、「この商品が、私の知識、経験、財産状況、ライフプラン、投資目的に照らして、ふさわしいという根拠は何か」「この商品を購入した場合、どのようなフォローアップを受けることができるのか」などの質問例が提示されている。

また、商品のリスクや費用については、「相対的にリスクが低い類似商品はあるのか。あればその商品について説明してほしい」「私がこの商品に〇〇万円を投資したら、それぞれのコストが実際にいくらかかるのか説明してほしい」「費用がより安い類似商品はあるか。あればその商品について説明してほしい」などの質問を例示。「私がこの商品を換金・解約するとき、具体的にどのような制限や不利益があるのかについて説明してほしい」といった、金融機関にとってはやや答えにくいとも思える質問例もある。

「実際に商品を購入する際には、『お客さまもこういう質問をしてみましょう』ということです。商品をより詳しく知るための、手がかりとなる質問ですね。質問例は、取引経験の豊富な方の体験談に基づいて作られています。銀行や証券会社などの販売会社は販売のプロではありますが、資産運用のプロというわけでは必ずしもありません。そのため、顧客に本当に合った商品を勧めることができるとは限らない。購入の場面で販売担当者の言いなりになるのではなく、主導権を顧客側が握るためにもこうした質問を積極的に行い、自分が求めている商品かどうかを見極める姿勢が求められるのです」(永沢氏)。

永沢 裕美子氏

一方で、重要情報シートの作成は、金融機関にとってコストや手間の増加に直結する。逆に言えば、そこにどれだけ力を入れているかが、本当に信頼できる金融機関なのかどうかの判断材料の1つにもなると永沢氏は強調する。「金融機関にとって負担になるのは事実ですが、だからこそ、差別化につながるという側面もあるはずです。しかも、その力の入れ具合がお客さまの目に見えるようになるわけですから、重要情報シートの有無、その内容が商品を選ぶ上での重要な基準になっていくのではないでしょうか」。

また、長期で寄り添ってくれる金融機関を選ぶという視点でも、この重要情報シートが大きな手助けになると永沢氏は続ける。「資産形成においては特に長期の運用が大切になりますから、あたかも『かかりつけ医』のように、金融機関と長いお付き合いをしていくのが理想です。金融機関側も資産形成の伴走者として、顧客に長く寄り添う姿勢を重要情報シートにも示して欲しいところです」。

さらには、重要情報シートを参考にしながら前述のような質問を行うことで、金融機関の担当者を「育てる」側面もあるという。「金融機関の担当者の質を向上させられるかどうかは、顧客次第だとすら言えるのかもしれません」。

個人投資家の金融リテラシーが向上すれば、販売側もそれに合わせて提案を変えたり、知識を身に付けたりといわば双方の成長が期待できる。その第一歩として、販売側の言いなりになるのではなく、まずは疑問点を質問する。そこで重要情報シートの質問例が役立つというわけだ。

これまで消費者の立場で金融審議会の委員を10年以上務め、現在も特別委員として複数の分科会のメンバーに名を連ねる永沢氏。「資産運用業界の常識が、少しずつ世の中の皆さんの常識に近付いてきている」と、ここ数年の変化を評価する。「10年くらい前は、お客さまと金融機関の利益相反の話をしても、全く理解されませんでした。しかし最近は、金融機関の皆さんのお話を聞いてみると、自社の利益だけでなく顧客の利益もどうやって追求していくのかを考えるところが確実に増えてきています」。

加えて、NISAやiDeCoといった制度の拡充もあり、長期、積立、分散投資を通した資産形成を後押しする環境は確実に整いつつあるという。「これまで『手数料の見える化』などが言われてきましたが、次のステップとしては、併せて金融機関の経営もガバナンスの視点を取り入れながら顧客に見えるようにしていかないといけない。そのためには、例えば社外取締役などの第三者に社内情報が遮断されないような体制を構築し、その意見も採用しながら『顧客本位の経営』を行っていく姿勢が求められるでしょう」。

市場ワーキング・グループが公表した報告書が発端となり、2000万円問題を巡ってさまざまな議論が巻き起こった2019年。結果として、多くの人が資産運用への関心を高めたのは間違いない。

重要情報シートは、早ければ来年早々にも金融機関で活用されるようになる見通しだが、ルール化されたわけではない。報告書で示されたのはあくまで大枠のみであり、今後は各業界が連携し、その方向性に沿ったシートの開発が進められることになるはずだ。いずれにしても、重要情報シートの導入が、個人投資家のメリットにつながることを期待したい。

永沢 裕美子(ながさわ・ゆみこ)氏 Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 世話人

東京大学教育学部を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。アナリスト業務や資産運用業務などに従事後、Citibankに移り、個人投資部の立ち上げを担当。2006年にお茶の水女子大学大学院にて生活経済学を修了。早稲田大学法科大学院にて学び、2012年に法務博士。現在、金融審議会特別委員、国民生活センター紛争解決委員会特別委員、金融庁参事・金融行政モニター委員など幅広く活動している。

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Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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