ANAの大リストラを皮切りに、世界的に航空会社の破綻が相次ぐ?
金融ジャーナリスト・鈴木雅光が読み解くニュースの本質 5

ANAの大リストラを皮切りに、世界的に航空会社の破綻が相次ぐ?

  • 公開日:2020.11.02

Editor's Eye

全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングスが10月27日に発表した2021年3月期の連結決算の見通しは、5100億円の赤字という衝撃的なものでした。新型コロナウイルスの影響が航空会社を直撃していることを、改めて多くの人に認識させる格好となりましたが、一方で、たとえ新型コロナウイルスが収束したとしても、すぐに元に戻るというものでもなさそうです。今後の投資戦略にも大きな影響を与える航空産業の行く末を、金融ジャーナリストの鈴木雅光氏が読み解きます。

Covid-19という新型コロナウイルスの世界的なパンデミックで、人々の生活様式の一部は着実に変わっていきます。その影響が企業収益にも及んできました。

全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングスは10月27日、2021年3月期の決算が連結ベースで5100億円の赤字になる見通しだと発表しました。長距離国際線で使用している大型機35機を削減するなど構造改革も併せて発表され、抜本的な改革が不可避となっています。

国が旅行代金について最大で半額まで補助を出すGoToキャンペーンは、9月の4連休あたりから効果が出始めてきて、観光地にも徐々に人が戻りつつあるようですが、おそらく航空会社にとっては、それでも先行きを楽観視することはできないでしょう。しかも、それは日本の航空会社に限った話ではなく、今後世界的に航空会社の経営は厳しくなっていく恐れがあります。それは、Covid-19のワクチンが開発され、世界的にパンデミックが抑え込まれたとしても、です。

つまり、Covid-19のパンデミックが収まったとして、パンデミック以前の状態に戻るものと、戻らないものがあると考えられるのです。例えば外食産業や観光は、パンデミックリスクが無くなれば徐々に人が戻ってくるだろうと思われます。

しかし、ひょっとしたらもう戻らないのではないか、というものもあります。それは企業の出張需要です。

旅行業界のニュースサイトであるトラベルビジョンが、8月後半から9月にかけて、一般企業などに今後の海外出張について質問をしたところ、パンデミックが収束した後も海外出張は最大で6割、最小でも4割は減らすという答えが返ってきたそうです。

その理由については、「出資先企業の取締役会や株主総会への参加が出張全体の2割を占めていたが、Webでの参加が可能になったので、この分の出張は削減される」「社内会議はもちろん商談もZoomなどのWebミーティングで十分であることが上層部も含めて認識された」「リスクとコストを軽減するため、仮に出張が必要な場合でも1回あたりの参加人数を減らして、一部は日本からWebミーティングで参加する」というようなことが書かれていました。これは海外出張だけでなく国内出張にも当てはまります。

先日、ある上場企業の経営者との対談取材に立ち会ったのですが、その経営者が言うには、「以前は経営者が海外の年金や投資ファンドのところを回って業績などについて説明するロードショーを定期的に行っていたのが、今はWebミーティングでの対応も可能になったので、海外出張の負担が減って助かる」ということでした。

人間は一度、便利さを知ってしまうと元には戻れなくなります。Webミーティングなどはまさにその典型的なケースでしょう。私自身も最近は、取材の一部がWebミーティングに切り替わっていますが、かつてのように往復の移動時間などを考慮すると、非常に効率的であることが分かりました。取材のすべてがWebミーティングに切り替わることはありませんが、Webで済ませられる内容の打ち合わせや取材は、確実にそちらにシフトしていくはずです。

このように考えると、将来的にパンデミックが抑え込まれたとしても、企業の出張需要はあまり戻らないのではないかと考えられるのです。

さて、企業の出張需要が戻らないとなったら、航空会社に及ぼす影響は甚大なものになりそうです。

飛行機で出張する人は、経営者クラスがファーストクラス、役員・部長クラスがビジネスクラスを利用するケースが多いでしょう。そしてこれらの料金を、マイルを活用して割り引いてもらったり、格安航空チケットを探したりして利用する人はほとんどいません。大半は正規料金の顧客です。

当然、1便を飛ばすことで航空会社が得られる収益のうち、ファーストクラスとビジネスクラスに正規料金で搭乗している人たちの占める割合が高いのは自明です。つまり上顧客というわけですが、その人たちの出張需要が大幅に後退すれば、航空会社としては上顧客を一気に失うことになります。これはFSC(フルサービスキャリア)にとっては大きなダメージです。

そうなると、ファーストクラスとビジネスクラスを大幅に縮小して、ほとんどの席をエコノミークラスするか、もしくは全席をエコノミークラスにして搭乗率を引き上げる価格設定にするという方法も考えられますが、これだとLCC(ローコストキャリア)と何が違うのかということになり、FSCである全日空の存在意義を根本から揺るがしかねない事態になります。

すでに、5月から8月にかけて、チリのラタム航空、タイのタイ国際航空、コロンビアのアビアンカ航空、メキシコのアエロメヒコ、タイのノックスクート・エアライン、オーストラリアのヴァージン・アトランティック航空が破産法の適用を申請、あるいは清算されました。Webミーティングの普及によって、世界中でビジネスパーソンの出張需要が後退すれば、航空産業は構造的不況業種になる恐れがあるのです。

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著者

鈴木 雅光 金融ジャーナリスト
鈴木 雅光
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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