“お金のかかりつけ医” IFAのアドバイス事例

9000万円の相続資産。自分でも気付かなかった「悩み」をクリアにした助言

  • 公開日:2020.11.12

今回は愛知県にお住まいの専業主婦、沢田陽子さん(52)の例を紹介します。

相談者:
沢田 陽子さん(52) 専業主婦

ご家族:
夫  紀夫さん(52)
長女 果帆さん(26)
次女 史帆さん(23)

(いずれも仮名)

沢田さんは、5年ほど前に亡きお母様から約9000万円の資産を相続したのを機に、資産運用を始めました。地元の地銀で毎月分配型投信を、対面型証券でテーマ型投信と仕組債、さらにネット証券でも口座を開設し、ご自身で個別株を売買していました。

これらの運用では、利益が出ることもあれば損失が出ることもあり、結局トータルでは成果が上がっていませんでした。自分で手がけている個別株はともかく、金融機関のアドバイスで購入した商品の運用成果が低迷していることには納得がいかないようです。彼女の友人が私の顧客だったため、「五十嵐さんに相談してみたら?」と勧められ、紹介でいらっしゃいました。

初回の面談では、まずはご本人の希望と運用の目的を引き出すことに努めました。というのも、これまでの運用成果に対する不満はともかくとして、9000万円もの資産があるなら、あえてリスクを取った運用をしなくても、計画的に取り崩していけば多くの人が心配する老後資金としてはまったく問題ないからです。

始めのうちは、返ってくる答えも「なんとなく……」など、ご自身でも目的がよく分からない様子でしたが、詳しく聞いていくと2人の娘さんに資産を残したいという希望があることがわかりました。また、ご自身がお母様の資産を相続する際、取引金融機関が多過ぎて苦労した経験があることから、なるべく娘たちには同じような手間をかけさせないよう、資産の残し方もシンプルなかたちにしたいということでした。

2人の娘さんへの相続に関しては、沢田さん本人が亡くなってからではおそらく相続税の対象になりますし、そもそも沢田さんは50代ですから、相当先の話になります。そこで、元金を減らすことなく、投資信託の分配金を活用して少しずつ贈与していく形をご提案しました。

分配金とひと言で言っても、その原資が運用益なのか、元本を取り崩しているかによって大きく意味が違ってきます。すでにお持ちの毎月分配型ファンドは元本から配当を出している「タコ足分配」となっており、これでは保有するほど元本が減ってしまいます。分配金そのものは悪いものではありませんので、利益の範囲内で適正な分配を出す商品に乗り換える必要がありました。また、合わせて沢田さんが持っていたテーマ型投信は自動運転の関連銘柄に投資する商品で、価格変動の大きい商品です。そのため、こうした商品を手放し、より安定したポートフォリオを組むことにしました。

これらを売却して得た1000万円に、定期預金から3000万円をプラスした4000万円で、日本株、米国株、金、海外債券、REIT(不動産投資信託)の投資信託を購入しました。全部で年に100万円(税引き後)のリターンが期待できるポートフォリオです。

このポートフォリオから得られるであろう100万円の利益を、2人の娘さんに年50万円ずつ贈与していくことにしました。50万円であれば贈与税の対象にもならないので、効率的に資産を移転できます。ただ、毎年リターンが必ず100万円出るわけではなく、大きく上がる年もあれば下がる年もあるのが運用です。大きく上がった時は多めに利益を確保し、その分、下がった時は売却はなしにしましょう、とご案内しました。

次は沢田さんご自身の生活です。突然の相続で資産家になったものの、長く普通の専業主婦として堅実な生活をしてきたこともあって暮らしぶりは質素で、当面は生活費として資産を取り崩す必要はなさそうです。ただ、年に1回、友人と海外旅行に行くのが楽しみなので、その費用として20万円程度が必要だということでした。

そこで、この旅行費用についても元本を減らさずにインカム収入から捻出することにしました。そのための投資先として選んだのは、劣後債です。劣後債は社債の一種で、発行体の企業が破綻するなどした際に弁済を受けられる順位が低い代わりに、利回りが高く設定されています。破綻した際の優先順位が低いので債券としてはハイリスクハイリターンですが、一切の弁済を受けられない株式と比べるとローリスクです。このため、劣後債は債券と株式の中間的な位置付けであるとも言われます。

沢田さんの場合は、2つの劣後債を組み合わせて3%前後の利回りが狙える1000万円のポートフォリオを組みました。税引き後で年20万円程度の利金を得られるので、これを毎年の旅行費用に充てることにしました。

他社で保有している仕組債については、途中で売却すると大きな損失が出てしまうのと満期が近かったので、これだけはそのまま保有することとしました。

毎年50万円の贈与を受けることになった2人の娘さんはいずれも20代で、欲しいものがたくさんある年頃。沢田さんは「いま、現金を与えると浪費してしまうのでは……?」と心配していました。金額や手渡すツールだけでなく、将来の結婚や子どもの教育、老後など、まとまったお金が必要な時のために貯めておいてほしい、と、「適切に使えること」も含めたソリューションを希望されていたのです。

そこで、それぞれに贈与する50万円のうち、10万円は娘さんたちの自由にしてもらい、残りの40万円を米ドル建ての終身保険とつみたてNISAに回すことをご提案し、娘さんご本人たちともそれぞれ面談の上、保険加入や証券口座開設の手続きをお手伝いしました。

長女は住宅購入を考えていたので、そちらのアドバイスと住宅ローンシミュレーションも作成しています。最終的には「マイホームはまだ早い」という結論に至りましたが、奔放な性格の娘さんが将来を考えて結論を出したことに沢田さんも喜んでいました。

沢田さんとは今も定期的に面談やお電話などで近況を伺ったり、運用の状況を説明したりしています。最初のご提案時に保有していた仕組債も償還され、当社でもより安心して保有していただけるファンドラップ商品の取り扱いを始めたことから、投資信託はファンドラップに乗り換えました。

個別の投信で保有し続けてもいいのですが、中にはそれぞれの損益を過剰に気にしてしまう人もいます。分散投資は値動きが異なる資産を組み合わせることで全体の値動きを安定させるのが目的なので、個別の商品のマイナスを気にしていてはキリがありません。すでに複数の商品が組み合わさって分散投資ができているファンドラップであれば、本来目指しているトータルでのパフォーマンスだけが見えるためあまり値動きも気にならず、管理もラクになります。ラップファンドは手数料が高いのがネックと言われますが、信託報酬は1.8%程度と、モニタリング・メンテナンスの手間を考慮すれば標準的な水準の商品を扱っています。

ちなみに、相談前から手掛けていた個別株投資については、そのまま自己判断で続けたいとのご希望でした。リスクが高い取引であることは承知しており、だからこそ、それ以外の資産では値動きにハラハラさせられないようにしたいといいます。比較的値動きの安定したファンドラップにまとめて任せることで、個別株にも安心してチャレンジできるのではないでしょうか。沢田さんご自身が苦労されたという相続の際も、商品を絞ることで手続きもシンプルになります。

沢田さんのように、ある程度まとまった資金をお持ちの方には「なぜ、自分は資産運用をしているのか」を意識したことがない、という人が意外に多いものです。今回、沢田さんに私をご紹介くださった友人の方も、相談を通じて目的が明確になり、より有意義な資産運用を実践できているという点にご満足いただいているからこそ、わざわざご紹介をしてくださったのだと思います。「ある程度の資産があるから大丈夫」と思っていても、お金のあるところにはさまざまな引き合いが来るもの。お金の使いみちについてしっかりと目的を定め、心配の少ない生活を送りたいという人に、アドバイザーは大きな手助けになるでしょう。

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著者

非公開: 五十嵐 修平 バリューアドバイザーズ 代表取締役
非公開: 五十嵐 修平
父親の影響で大学生の時に株式投資を始め、投資の無限の可能性を感じ証券会社に入社。 実務経験を積み、退職後、お客さまと金融機関の利益相反をなくし、 中立な立場でご提案をしたいとの想いから2013年2月にバリューアドバイザーズを設立。毎年海外視察に行く中で、マーケットの予想を繰り返すような日本の金融サービスとは異なり、 お客さまと目的・目標を共有しゴールに向かって運用する手法に感銘を受ける。そして、欧米の個人金融資産が大きく伸びている実績を目の当たりにし、 欧米式の資産運用手法を基に独自のコンサルティング手法を考案。IFAとして、お客さま目線で本当に価値あるご提案をお届けするために活動を行っている。

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