
定年までの「あと10年」でできる!“老後破産”の回避策
- 公開日:2020.12.18
Editor's Eye
人生100年時代において、50歳はまだまだ折り返し地点。特に、これからの時代に必要になってくるのは「働きながら年金をもらい、資産を上手に使う」という発想です。単に貯めるだけでなく、リタイア後のお金の準備も始めておきたい「R50」世代に向けて、長年マネー誌、ビジネス誌の編集に携わり、年金関連の取材・執筆を多数手掛けてきたフリーライターの森田聡子(としこ)氏が解説するシリーズ連載。第16回では、大手流通系企業で長きにわたって確定拠出年金(DC)関連の業務に携わり、現在は社労士として活躍する鈴木一成(かずなり)氏への取材を実施。50歳からの定年準備の具体的な方法や、注意点などを聞きました。
定年後のBS改善の切り札は家計の見直し、先取り貯蓄でしっかり貯める
――前回(“老後破産”対策は50歳から始める!まずは「お金の棚卸し」から)は「将来の貸借対照表(BS)までたどり着ければ、“自分事”の老後がかなり見えてくる」というお話でしたが、もしそのBSが真っ赤(債務超過)だったら、どうすればいいのでしょうか?
そこで絶望することはありません。定年まで10年の猶予があるわけですから、そこで少しずつBSを改善していけばいいのです。カギを握るのは、家計の見直し(生活のダウンサイジング)です。
特に効果が大きいのは保険。50代になれば子どもも成長して独立された方が多いと思います。扶養家族が減れば、その分、死亡保障を圧縮できます。さらに、最近は保険料の安いネット保険も増えていますから、自動車保険や火災保険も含めて見直すといいでしょう。毎月の保険料が1万円安くなれば、10年間で120万円分が改善できます。
高収入でもなかなかお金が貯められないという方には、給与天引きの“先取り貯蓄”をお勧めしています。一般的には「収入から支出を行い、残った分を貯蓄に回す」という感覚だと思いますが、その順番を入れ替えて、収入からまず貯蓄分をキープし、残ったお金で生活することを考えるのです。この方法なら、目標額を確実に貯めていくことができます。
住宅ローンが残る場合、一括返済より「ボーナス併用払いからの脱却」と「借り換え」を
――退職金については、どのように考えたらいいですか? 定年後も住宅ローンが残る場合は、退職金で一括返済したほうがいいのでしょうか。
最近は退職金制度のない企業が増えてきています。退職金の出る方はラッキーと言えそうです。
退職金は老後の大きな備えになりますから、50歳になったら、自分はどれくらい退職金が受け取れるのか、どういう受け取り方が可能なのかといった最低限の情報は把握しておきたいですね。ポイント制を採用している企業なら、自身の退職金額の把握も容易だと思います。
住宅ローンについて、以前は「退職金で一括返済した」という話をよく聞きました。その結果、手持ちの資金がほとんどなくなってしまったという人もいます。
しかし、今はそういう時代ではないように思います。定年後も働く人が多いので、住宅ローンをコツコツ返していくのもそう難しいことではありません。加えて、住宅ローンの契約者はほとんどが団体信用生命保険に加入していますから、契約者に万が一のことがあってもローンの残債は保険で相殺され、遺族には家が残ります。
結論として退職金を使って無理に返してしまう必要はないと思いますが、次の2つのアドバイスはしています。まずは、定年後に備えてボーナス併用払いをやめること。そして、借り入れたときのローン金利が高めだったら、今のうちに借り換えてローン残高を減らしておくことです。
ボーナスなどで余裕があるときには、繰り上げ返済をするのもいいでしょう。その場合は、月々の返済額を減らすのではなく、返済期間を短縮するほうを選ぶのがポイントです。
共働き夫婦とシングルが陥りやすい「老後の落とし穴」
――確かに、退職金はなるべく手を着けず、将来のためにキープしておきたいですね。さて、鈴木さんがよくおっしゃっているのが、「配偶者が専業主婦(夫)」「夫婦共働き」「シングル」といった自分のライフスタイルを踏まえて状況を把握することの大切さです。そこも詳しくお教えください。
統計データを見ると、ほとんどが「配偶者が専業主婦」のケースになっています。これは、昔の統計に夫婦共働きやシングルというデータがないことが原因のようです。日本の代表的な家庭といえば、長きにわたって「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」だったのですが、2000年頃に夫婦共働きが数の上で逆転し、今ではこちらが主流になっています。
ダブルインカムだと、収入が多いがゆえに消費が膨らみ、高止まりした消費生活を定年後にも持ち込みがちです。さらに、共働き家庭がリッチなのは夫婦共に存命の間だけ、ということも知っておき、老後に備えて意識を変えていったほうがいいでしょう。
仮に共働きの妻だけが残された場合、夫の老齢基礎年金分はもらえなくなりますし、遺族厚生年金は妻の老齢厚生年金と比較して上回る部分のみが妻の厚生年金に上乗せされるだけです(遺族厚生年金は①夫の厚生年金の4分の3➁夫の厚生年金の2分の1と妻の厚生年金の2分の1――のいずれか多い方)。世帯としての年金収入のダウンは避けられません。
また、シングルだと、将来の生活費を「夫婦2人家庭の半分で済む」と考える方も多いようです。しかし、家賃や光熱費など、家に人が複数いるほうが効率のいい出費も多く、実際にはシングルだと夫婦2人家庭の6割程度の支出が発生します。そこには注意が必要です。
BSを踏まえ、何歳まで働き、いくら稼ぐかを想定しておく
――勉強になります! 最後に、鈴木さんからご自身の経験を踏まえて、R50世代の読者にご助言をいただけますか?
定年退職者の大半が引き続き会社で働く時代です。ライフプランセミナーの受講者も、はっきりと決めてはいないにしても、漠然と「定年以降も仕事をする」ことを考えているようです。
しかし、前編「“老後破産”対策は50歳から始める!まずは「お金の棚卸し」から」でも申し上げたように、今は働き方にもいろいろあります。再雇用なのか、独立するのか。自分の特性や家族の状態などを考慮しつつ、50歳からの10年間でしっかり見極めておきたいところです。私自身、53歳で社会保険労務士の資格を取りましたが、実際にやってみると、資格があれば仕事が来るといった甘い世界ではありません。
前編でお話ししたように家計のBSを作成し精査した上で、プラスマイナスゼロに持っていくにはあといくら必要か、そのためには何歳まで働いて、どれくらい稼ぐ必要があるのかをざっくり把握しておきましょう。
50歳でそこまでやっておけば、その後の老後準備もかなりの確率でうまくいくはずです。