「税金」に注目!退職金の受け取り方、一時金or年金…どちらが得?
「R50」の新常識 余裕の老後は知識で築く! 17

「税金」に注目!退職金の受け取り方、一時金or年金…どちらが得?

  • 公開日:2020.12.25

Editor's Eye

人生100年時代において、50歳はまだまだ折り返し地点。特に、これからの時代に必要になってくるのは「働きながら年金をもらい、資産を上手に使う」という発想です。単に貯めるだけでなく、リタイア後のお金の準備も始めておきたい「R50」世代に向けて、長年マネー誌、ビジネス誌の編集に携わり、年金関連の取材・執筆を多数手掛けてきたフリーライターの森田聡子(としこ)氏が解説するシリーズ連載。最終回となる第17回では、有利な退職金の受け取り方を取り上げます。一括で受け取る「一時金」と、退職後何年かにわたって分割で受け取る「年金」受け取り。どちらが有利なのか、悩む人の多い問題ですが、「税金」に着目すると答えは案外シンプルに出せると森田氏は言います。

定年が視野に入ってきたサラリーマンの中には、老後資金の柱として会社の「退職金」を当てにしている方が少なくないのではないでしょうか? 日本では一般的な退職金ですが、実は会社を辞める際にまとまったお金が受け取れるという制度自体、海外では珍しいようです。それもあって、経営のグローバル化が進むにつれ、近年は退職金制度を廃止する企業が増え、退職金の金額も減少傾向にあります。

そんな中、昔ほどではないにせよ、相応の金額を手にすることができる今の50代は、“退職金逃げ切り世代”とも言えます。だからこそ留意したいのが、退職金の受け取り方法です。
通常なら「一時金(一括)」「年金(分割)」「一時金・年金併用」などいくつかの選択肢が用意され、その中から指定できるのですが、選び方次第で「受取総額」や「実質受取額」が大きく変わってくることをご存じでしょうか?

「受取総額」の面で有利なのは、年金形式です。年金で受け取る場合は定年後も会社や企業年金が引き続き運用を続ける格好となり、その運用益が上乗せされるため、一時金形式より受取総額が増えるのです。現状、運用利率は1~2%というところが多いようです。
しかし、税金や社会保険料を差し引いた「実質受取額」となると話が変わってきます。新卒や第二新卒で入社した会社で定年まで勤め上げたという人だと、一時金形式が有利になる可能性が大きいのです。

これは、一時金で受け取る際に「退職所得控除」が適用されるためです。退職一時金は税務上、通常の給与や賞与とは別の扱いになります。課税される退職所得は「(退職金-退職所得控除)×2分の1」で計算され、退職所得控除は勤続20年以下が「40万円×勤続年数(控除額が80万円未満の場合は80万円とする)」、同20年超が「70万円×(勤続年数-20年)+800万円」です。

大学卒業後、新卒で入社して60歳で退職する人(勤続38年)なら、退職一時金は2060万円まで税金はゼロということになります。ちなみに、退職所得には社会保険料もかかりません。

これに対し、年金で受け取る場合は雑所得扱いとなり、公的年金などと合算の上、課税所得が計算されます。60~64歳の間は年間で60万円、65歳以上は同110万円の「公的年金等控除」があり、年金収入がそれぞれの控除に基礎控除(48万円)分を加えた108万円(60~64歳)、158万円(65歳以上)の範囲内なら非課税です(いずれも、公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1000万円以下の場合)。

以前雑誌の企画で、勤続38年の人が2000万円の退職金を①一時金として受け取った場合②60歳から10年間の有期年金として受け取った場合(運用利率2%、65歳以降はこの他に公的年金を240万円受給すると仮定)――の税金を比べてみたことがあります。この比較で、両者の差が分かりやすく表れました。

①は前述の通り、非課税です。一方で②では退職金を年金受け取りにすることで、所得税と住民税の負担が10年間で約200万円増えるという結果になりました。2%の利回りが上乗せされるものの、税金の増加分で相殺されてしまいます。つまりこのケースでは、社会保険料の負担が増える分、年金形式の受け取りが損になる、ということになります。

それだけでは済みません。健康保険や介護保険には、月ごとの自己負担額が一定額を超えた場合にその超過分を払い戻してもらえる「高額療養費」「高額介護サービス費」という制度がありますが、年金形式を選ぶことで老後の所得が増えると、その自己負担限度額の所得区分が上がってしまうこともあるのです。

さてここまで、新卒や第二新卒で定年まで勤め上げた方なら、「実質受取額」の面では退職一時金を選ぶのが有利というお話をしてきました。しかし、だからといって年金形式での受け取りを否定するわけではありません。

以前、ある大手メーカーの福利厚生を取材した際、定年退職する社員の大半が年金形式での受給を希望するという話を聞きました。その理由が、「会社を辞めた後も会社から年金が振り込まれることで、会社とのつながりを保っていられる」「自分がそこの社員だったという誇りを持ち続けられる」というもので、話を伺った筆者も思わず胸が熱くなった次第です。

当該メーカーは就職人気企業ランキングでも長年にわたって上位にランクされており、福利厚生も業界内で群を抜いて手厚く、従業員と非常にいい関係を築いていることがうかがえました。
こうした“心のプレミアム”があるのであれば、損得関係なしに年金形式が選ばれる理由も納得です。

一方で、何千万円ものお金を手にしても、どう運用していいか分からないと考える方もいらっしゃるかもしれません。こうした場合、会社や企業年金に1~2%の利率で運用してもらえるのなら、預貯金や国債に預けるよりずっとお得という考え方もできます。

大金を手にするとつい気が大きくなってハイリスク商品にお金を注ぎ込む方もいるようですが、退職金での投資デビューはむしろ失敗例のほうが多いという話は「“退職金デビュー”はNG! 50代から始めたい『投資の筋トレ』とは?」の回でご紹介しました。それなら、年金形式を選んで会社に運用を任せるのも“合理的な選択”と言えるのではないでしょうか。

いずれにせよ、退職金をどう受け取るかは老後の家計を大きく左右するポイントになります。受け取り方を決める際には、お金の専門家に相談するのも一法です。

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著者

森田 聡子 金融ライター/編集者
森田 聡子
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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