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人智との融合で“一歩先”のクオンツ運用を ファンドマネジャーの哲学に迫る

  • 公開日:2021.01.08

Editor's Eye

数多ある株式銘柄から投資先銘柄を選定し、組入割合や売買タイミングなどを判断するファンドマネジャー。アクティブファンドの心臓部を担う彼らですが、どんなきっかけで運用の道を歩み始め、どんな運用哲学の下、運用に当たっているのでしょうか。運用会社に在籍していた経験も持つFPの岡田禎子さんが「いま、気になる」ファンドマネジャーにインタビューするシリーズ連載。今回は、パフォーマンスが実質的な過去最高値を超えたときにだけ運用会社への信託報酬が発生する成果報酬型の採用により話題を集めている投資信託「百戦錬磨の名人ファンド」の運用を担当する、三菱UFJ国際投信の魚谷孝雄氏にインタビューしました。

アクティブファンドは各ファンドの運用方針に沿って運用されており、「唯一無二」のファンドを発掘するのも魅力の一つです。そのファンドマネジャーとはどんな人で、どんな投資哲学を持ってファンドを運用しているのでしょうか? いま気になるファンドマネジャーにインタビューしてみました。今回話を伺うのは、「百戦錬磨の名人ファンド」(三菱UFJ国際投信)の魚谷孝雄チーフファンドマネジャーです。

同ファンドは、運用会社が得る信託報酬はパフォーマンスが実質的に過去最高となった場合のみ発生する「成果報酬型」という報酬体系を導入したことで話題となっています。

この人に聞きました

魚谷孝雄

魚谷 孝雄

三菱UFJ国際投信 運用戦略部 チーフファンドマネジャー

2001年UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ国際投信)入社。ファンドのパフォーマンス分析やリスク分析を行うリスク管理部を経て、2003年に運用部門へ異動し、日本株アナリストに。その後日本株ファンドマネジャーを経て、2006年から百戦錬磨の名人ファンドのマザーファンド「日本株マーケットニュートラル・マザーファンド」(以下、マザーファンド)を担当。ジャッジメンタルリサーチと計量モデルを融合させた独自の運用手法でファンド運用を実施。

――最初に魚谷さんのご経歴を教えてください。

旧UFJ パートナーズ投信が発足した2001年に、新卒で同社に入社しました。最初の配属先はリスク管理部でしたが、社内公募に応募し、日本株の運用部門に異動。日本株のリサーチアナリストを経て、バリュー(割安株投資)運用のチームでファンドマネジャーとなりました。そこで2年半ほど、ジャッジメンタル運用(基本方針の中で、ファンドマネジャーが投資判断を下す運用手法)を担当した後、2006年にはクオンツ部門に異動しました。そこでこのファンドのマザーファンド(「日本株マーケットニュートラル・マザーファンド」)の運用担当になりました。

マザーファンドは機関投資家向けのものでしたので、個人投資家向けの商品に携わるのは今回が初めてになります。

――新卒で運用会社に入られたということは、学生のころからファンドマネジャーになりたかったのですか?

はい、資産運用には学生時代から興味がありました。大手シンクタンクでクオンツ開発を担当されていた方が大学院でファイナンスを教えていらしたので、その先生の下で勉強していました。その当時、やりたいことは漠然としていたのですが、金融工学やデリバティブを学ぶうちに株式運用の道が面白そうだな、と思うようになりました。

――ご希望通り念願が叶ったのですね。ただ、キャリアのスタートは大学院の研究内容につながるクオンツ運用(人間の判断を介在させず、高度なデータ分析に基づく原則に沿って行う運用手法)ではなく、企業リサーチをベースとしたオーソドックスなアクティブ運用担当とのこと。一見、「遠回り」にも思える業務内容ですが、どう感じられましたか?

好配当型の投資信託を担当していたのですが、その当時はちょうどITバブルが2000年に崩壊した後で、バリュー相場(割安銘柄が値上がりしやすい相場)の全盛期。バリューファンド・ブームの中で好配当ファンドも大人気でしたので、時期としては良かったと思います。ただ、チームは非常に厳しく、1日最低3件は企業訪問して取材するなど、朝6時から夜12時まで全力疾走のハードな日々でした。

通常、アクティブ運用の世界は、5年、10年と経験を積んではじめて一人前と認められるのですが、チームにいた2年半の間に密度の高い時間を過ごすことができました。今の自分の運用スタイルのベースをつくりあげたのは、この頃の経験だと思っています。

――考えてみれば、アクティブの経験をお持ちのクオンツのマネジャーはとても珍しい存在です。とても貴重な経験をされたのですね。そして念願のクオンツ担当へ異動となり、このマザーファンドを引き継がれたと。

引き継いだタイミングはリーマンショック前の2006年でした。いわゆるバリューファンド全盛期が終焉を迎える頃で、このファンドも苦戦を強いられていたところに、2007年にはパリバショック、2008年にはリーマンショックが起こり、統計的にはあり得ない幅で一日の値動きが変動するのを目の当たりにしました。

――逆風のスタートですね……。その中で、魚谷さんはどのようにご自身の色を出されていったのですか?

クオンツ運用は、データの高度な分析を通じてモデル(運用の基本戦略)を組んでいくため、基本的には「データありき」の世界です。そこに、過去にアクティブ運用で培った、市場環境や企業分析といったデータでは測れない要素を組み入れることで、「安定的な収益確保」という目的によりフィットした運用を実現できていると思っています。

具体的に言うと、「データの定義付け」のアップデートです。今までになかったサービスが生まれたり、既存の会社でも業態が大きく変化したりとどんどん産業構造が変革していく中で、昔のままになっている定義を随時、新しく更新しています。

例えばZOZOは小売りセクターに属していますが、同じセクターにはファーストリテイリングなどが存在します。衣服を売るという点では一緒でも、ZOZOはオンライン、ファーストリテイリングの主戦場は実店舗と、同じ土俵で比較し切れない部分が大きく、マーケットの評価も全く違ってきます。こうした部分がリスクとして影響してしまうので、ZOZOは小売業ではなくオンラインサービスの会社と定義を変えるわけです。

――確かに、セクター分けの定義ひとつとっても、その企業や業界の背景を踏まえると、更新しないと実態と違ってくるケースがたくさんありそうですね。

クオンツの部門に移りたての頃、ファンドのポジション(売り・買い注文)を見たときに「なんだか変だな……」と違和感をおぼえたことがあります。それはまさに、ZOZOとファーストリテイリングのようなことだったと記憶していますが、クオンツは「データありき」の世界なので、産業や個別の企業を詳細にウオッチすることは少ないんです。そのため、私が感じたような違和感が運用戦略に反映されず、定義が以前のままになっていたのだと思います。

一般的に、クオンツ運用とは理論に基づいてモデル(運用の基本戦略)を作っていくものですが、その中に、こうした定義のアップデートなどのジャッジメンタルの要素を組み込んでいくのが私のスタイルなのだと思います。

このスタイルが奏功してか、私がメインで携わるようになった2007年以降も「安定的な収益確保」は継続しています。他ファンドのほとんどがマイナスを記録したリーマンショックの2008年も年次の成績はプラスを記録し、それ以降も安定的な収益確保を実現しています。

――まさに、アクティブ運用も経験されてきた魚谷さんの手腕が発揮されているわけですね。ところで、このファンドの一つの目玉となっているのが成果報酬ですが、運用者としてはどのように思われますか?

基準価額が上がれば、当然投資家はハッピーです。一方、ファンドマネジャーも基準価額が上がらないと評価されません。つまり、与えられている運用目標と投資家の期待目標が一致することになりますので、成果報酬はある意味、当然のかたちなのかもしれません。

ただ、もともと機関投資家の資金を運用してきたので、成果報酬制度が採用されたからといって運用のスタンスが変わるわけではありません。このマザーファンドの運用目的は「安定した収益の確保」。成果報酬型のファンドというと、運用会社が自分たちの報酬を得るために過度なリスクを取ってその分コスト(信託報酬)が上がる、といった傾向のものも中にはあるようですが、このファンドではその心配は全くありません。

細かい話ですが、成果報酬型というのは「(販売会社分の信託報酬を0%にできる)自社のネット直販チャネル(mattoco)での取り扱いでこそチャレンジできること」という切り口もあって出たアイデアです。

――あくまで顧客目線のファンドなのですね。なお、設定来、基準価額が10000円を下回っている足元のパフォーマンスについてはどう捉えていらっしゃいますか?

昨年末から、マーケットはバリュー(割安)でなくグロース(成長)株優位の相場となっていましたが、コロナ禍によってそれがさらに加速しました。しかし2020年の終盤に来て、相場の方向がグロースかバリュー、どちらに進むのか分からない状況となっています。

このファンドは、このように相場のスタイルが大きく変化するときパフォーマンスが苦しくなります。なぜなら「次はグロース相場が来る」「次はバリュー優位だ」などとファンドマネジャーが予測して運用するファンドではなく、マーケットの変化に合わせて運用スタイルを変えていくファンドだからです。

――方向感が定まらない相場環境下なので、ポジションを動かしにくく、パフォーマンスが出ないのもある程度仕方がないのでしょうか。

短期的に言えばおっしゃる通りです。ただ、このファンドが取っているリスク量は3.7%程度。これは「1年間で、プラスマイナス3.7%まで変動する確率が6割から7割ありますよ」という意味です。つまり、3.7%まで下落するのは想定の範囲内であり、今がまさにその状況です。過去に同様の局面を何度も迎えながら、安定的な収益確保を目指して運用を続けていますので、マザーファンドの実績も含め、長期的な目線で見ていただけるとうれしいです。

――難しいかもしれませんが、短期目線ではなく長期目線で見てもらいたいということですね。最後に読者や投資家の方、このファンドに興味をお持ちの方に対してメッセージをお願いします。

このファンドは将来の株価を当てに行くというタイプのファンドではなく、市場に左右されず、長期にわたって安定的な収益の確保を目指すファンドです。

機関投資家に長年受け入れられてきたこの運用戦略を、個人投資家の方にもぜひ、分散投資のパーツの一つとして使っていただけたらと思います。値動きが地味なために退屈なファンドと思われるかもしれませんが、5年先のリターンを見て保有するというように、長い目で見守っていただければ幸いです。

■インタビューを終えて

ファンドマネジャーに必要な資質を聞くと、少し悩んで「メンタルが強いこと」と答えた魚谷さん。クオンツとジャッジメンタルという二つの世界を知り尽くし、相場に応じて巧みに変化させる魚谷さんの「プロの仕事」こそが、長年機関投資家の支持を集め、生き残った理由なのでしょう。今後も「百戦錬磨の名人」である魚谷さんのブレない手腕に大いに注目したいところです。

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著者

岡田 禎子 ファイナンシャルプランナー
岡田 禎子
証券会社、資産運用会社を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。資産運用の観点から「投資は面白い」をモットーに、投資の素晴らしさ、楽しさを一人でも多くの方に伝えていけるよう活動中。個人投資家としては20年以上の経験があり、特に個別株投資については特別な思い入れがある。さまざまなメディアに執筆するほか、セミナー講師、テレビ東京系列ドラマ「インベスターZ」の脚本協力なども務める。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、ファイナンシャルプランナー(CFP)。

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