こんなに違う!若者の「ESG」と「ESG投資」への意識の違い

こんなに違う!若者の「ESG」と「ESG投資」への意識の違い

  • 公開日:2021.01.13

Editor's Eye

普段ことさら社会貢献に意識を向けていない人でも、ESG、SDGsといった言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。環境・社会・企業統治の頭文字を取ったESGや、国連で採択された世界共通の「持続可能な開発目標」SDGsは、経済に直接関係しないようにも見えますが、実は企業経営、ひいては投資・資産運用の世界にも大きな影響を与えています。日本総合研究所でESG研究のスペシャリストとして活躍する小島明子氏が若者を対象に実施した調査結果を通じてESG・SDGsについて解説するシリーズ連載。第2回では、ESG投資の普及・浸透に必要な要素は何なのかを考えます。

環境問題や社会問題に配慮した「ESG投資」という投資手法ですが、金融業界に限らず、近年では一般の方々もよく耳にするようになったのではないでしょうか。運用資金規模の大きい年金基金もESG投資を取り入れるようになったことから、ESG投資の投資対象となるべく、CSR報告書やアニュアルレポートを発行し、自社のESGの取り組みをアピールする会社が増えています。投資というフィルターが広くかかることで、企業がESGにかけるリソースが大きく、幅広くなりつつあると言えるでしょう。

ESG投資の影響力が大きくなってきたのはここ数年のことですが、実は1999年にはすでに、環境問題に取り組む企業に投資する「日興エコファンド」という投資信託が設定されています。ESG投資は環境問題への意識の高まりから欧米で始まったのがきっかけですが、目先の収益もさることながら、環境負荷削減の取り組みや環境に配慮した製品・サービスを製造する企業は、将来的には収益が上がると考えられていました。

「日興エコファンド」の設定から20年以上が経った今、ESG投資はさらに広がっていくのでしょうか。シリーズ第2回目として、日本総合研究所「若者の意識調査(報告) ― ESGおよびSDGs、キャリア等に対する意識 ―」(以下、本調査)を基に、未来の社会の担い手となる若者の間でESG投資は普及をするのかを考えます。

まず、投資の一歩手前の購買行動に関する設問から見ていきたいと思います。

環境問題等に取り組む企業のものに高い金額を払ってもよいか、カテゴリー別に聞く設問に、食べ物(71.0%)、電子機器(65.9%)、洋服(65.2%)、文房具(62.9%)、ヘアケア商品(56.4%)と、設定した全てのカテゴリーで半数以上の若者が「より高い値段を払ってもよい」と答えています。

中でも特に食べ物についてはその意識が強いようです。これには、おおよそ2つの理由が考えられます。

1つ目は、環境への配慮が自身の健康にもつながるという視点です。無添加やオーガニック商品は、以前に比べると多くの品ぞろえが店頭に並んでいます。健康増進に切実な問題意識を持つ子育て世代や中高年に限らず、今や若者も、環境に配慮した製品を食することは、健康の維持にもつながるイメージが強く抱いているのではないでしょうか。

2つ目は、倫理的な視点です。スウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリ氏が2018年に地球温暖化防止のために起こした運動は世界中の若者にも影響を与え、大きな運動に発展しました。この運動の広がりからは、若者たちにとって、環境問題が物心ついたときから直面し、身近な存在だったという背景がうかがえます。環境問題等に取り組んでいる企業の製品を使うことが、まわりまわって自分たちの社会を良くする、あるいは、今後悪化が懸念される問題の解消に少なからず役立つという意識があるのではないでしょうか。

高度経済成長期においては、より多くお金を稼ぎ、高級品を買い、消費をする生活が楽しいという価値観を持つ人が多かったと言えます。しかし近年、気候変動が私たちの暮らしにも大きな影響を与えるようになりました。今までと同じような生活を将来も続けていくのが現実的ではないことは明らかです。さらに、高度経済成長時代を知らない若者は、生まれたときから、景気が非常に良かったとされる時代を経験していません。それどころか、少子高齢化に伴う将来の社会保障費の負担の増大など、経済的な生活に不安を抱える若者も多いのではないでしょうか。

このような社会においては、必要以上に余計な物にお金を使わず、特に身近な生活用品ほど、シェアリングをはじめとした環境問題等に配慮した購買行動に変化していくことが想像されます。若者のお金の使い方は、環境問題等への意識の高さと同時に、漠然とした社会への不安や危機意識に影響を受けているのではないでしょうか。

では、「ESG投資」そのものへの意識はどうでしょうか。

投資への意欲がある若者のうち、環境問題や社会課題に取り組んでいる企業への投資意欲を持つ若者は全体で69.3%。男子で69.3%に対し、女子でも66.9%に上ります。一方で、そもそも投資意欲を持つ若者は、全体で34.7%、男子で41.6%、女子で27.8%にとどまっています。

環境問題等への意識が高く、投資意欲を持つ人の中ではESG投資への意欲が高くても、全体として見れば、ESG投資を行いたいと考える若者は決して多くはないのです。

確かに、購買行動と比べ、投資は間接的な行動になってしまうため、ESG投資を行うことで本当に自分が社会に良い影響を与えているのか、定量的に把握をするのは難しいと言えます。しかし、投資に関心を持つ若者のESG投資への関心の高さを踏まえると、金融経済教育等を通じて投資への関心を高められれば、若者の間にESG投資がより浸透する可能性があることがうかがえます。

先ほどの設問で、環境問題等に取り組んでいる企業への投資意欲に男女差はほとんどないのに、女子の投資意欲は男子と比べて低いという結果が出ました。しかし、多様な人材の活躍が企業の価値を上げるように、投資家にも女性が増えれば、投資の際に多様な視点が入り、ESG投資がさらに進むことが期待されます。特に女性は、リスクを回避する傾向や長期的視野に基づき決定をするという傾向もあると言われていますので、長期的視野に基づくESG投資と親和性があると考えられます。

投資においては、興味・関心も重要ですが、前提となる知識も欠かせません。金融や経済の授業を受けたことがある若者のうち、「理解ができた」と感じている人の割合は男子で64.8%、女子で51.5%となっています。

男女の投資意欲の差は、こうした金融や経済に対する関心や理解度に関係がありそうです。では、なぜ男子よりも女子のほうが金融や経済への関心が低いのでしょうか。

その理由にはまず、日本では女性の数学的学力が男性に比べて低いことが挙げられます。OECDが実施した学力調査(生徒の学習到達度調査(PISA)2018)を見ると、男女のポイント差が10ポイントと、OECD加盟国の5ポイントの2倍と、大きな開きがあるのです。さらに日本では、理数系の進路に関心を持っていたとしても、研究者などその分野で活躍している女性が少ないことや、仕事と家庭の両立が難しいイメージにより、適性があってもあえて敬遠している女性も少なくありません。

時代の流れとともにあらゆる分野で女性の活躍が進み、その差は徐々に縮まっていくと思われますが、金融や経済への関心の差を踏まえれば、女子に対する金融・経済教育を充実させることが重要だと考えます。

若い女性が学生のときから金融・経済をしっかりと学ぶことは、自身のキャリアを考えることにもつながります。男女の所得格差は年々縮小しているものの、その差はまだ決して小さくありません。働く女性の所得が上がらなければ、投資に回せる金額も大きくはならないでしょう。

ESG投資が広がるか広がらないかは、女性に対する金融・経済教育を充実させ、投資をする知恵や、投資できる所得を得られるような職業を持つ女性が増えることが重要な鍵を握ると言えるのではないでしょうか。

また、若者たちが実現したい社会を作るためには、投資を通じ「株主として変えていく」こともひとつの在り方です。例えば、2010年に英国で創設され、その日本版として2019年にスタートした、上場企業の女性役員割合を30%に増やすことを目指す「30% Club Japan」では、機関投資家が加わることで、投資行動を通じて女性役員が30%になるように働きかけています。金融教育の充実に加え、このように株主という立場を通じて社会を変えることができることを伝えていけば、若者にESG投資が広がるのではないでしょうか。

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著者

小島 明子 日本総合研究所 スペシャリスト
小島 明子
CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、国家資格キャリアコンサルタント。金融機関を経て日本総合研究所に入社。IESS客員主任研究員兼務。環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。その一環として、女性を含む多様な人材の活躍推進に関する調査研究、企業向けに女性活躍や働き方改革推進状況の診断を行っている。主な著書に「女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(経営書院)、「わたしのための金融リテラシー」(共著・金融財政事情研究会)。

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