アメリカ版企業型DC・401(K)が進化した理由―手数料への意識と“デフォルト投資”体制
LA在住FPが綴る、金融大国アメリカのリアル 5

ファンドの洗練、デフォルト投資―アメリカ版企業型DC・401(K)が進化した理由

  • 公開日:2021.01.20

Editor's Eye

個人投資家にとって、企業型DCあるいはiDeCo(イデコ)といった確定拠出年金制度を上手に活用することは避けて通れないでしょう。また2022年に制度改正が決定し、企業型DC加入者も多くの場合、iDeCoに加入できるようになることも話題です。そこで今回はLA在住ファイナンシャルプランナー・岩崎淳子さんに、日本より歴史のあるアメリカの確定拠出年金制度がどんな変遷で、どんな進化を遂げたかをテーマに綴っていただきました。進化の鍵はファンドの低コスト化やターゲット・デート・ファンドの普及、さらに法改正による“デフォルト投資”にありそうです。

アメリカに移住されて間もないクライアントの方とお話ししていて、「IRAっていうのはiDeCoのことなんですね!なかなか説明を聞いてもわからなかったけど、iDeCoと聞いてやっとピンときました!」と嬉しそうな声をお聞きしました。

日本の企業型DC制度とiDeCoは、アメリカの401(k)とIRA(Individual Retirement Account/個人退職勘定)におおむね相当します。

日本では今回ルールが改正され、2022年から企業型DC制度とiDeCoを併用できるようになると聞きました※。アメリカでも多くの方が勤務先では401(k)で積み立て、個人としてはIRAで資産運用をしています。一つ選ぶならどちらを選んだ方がいいかとか、両方使うならどちらを先に使ったほうがいいかとか、過去にはプラニング上注意するべき点も多かったのですが、昨今ではかなりシンプルになってきているように思います。

※編集部注……現在は企業型DC加入者はほとんどの場合、iDeCoに加入することはできませんが、法改正によって2022年10月より、企業型DC加入者も多くの場合iDeCoへの同時加入が可能になります。

過去において何が一番問題だったかというと、投資運用ファンドの選択肢と手数料です。401(k)は積立限度が高く(50歳未満で$19,500/年)、給与天引きで積み立て出来る便利さもあり、個人での手続きが必要で限度額も低いIRA(50歳未満で$6,000/年)よりも先に考慮されるべきだと思います。

しかしながら、401(k)で選択できるファンドラインアップは、それぞれの会社のプランですでに決められていますので、そこで目的に合う良いファンドが提供されていればいいのですが、提供がなければ“お金は入れるが思うように運用ができない”ということになります。例えば世界の株式市場に投資したいのに、株式ファンドはS&P500インデックスファンドしか提供されていない、というようなケースです。

また、目的に合うファンドがあったとしてもそのファンドの手数料があまりに高いというようなケースもあります。投資内容的に同じようなファンドでも、他で投資すれば0.20%の手数料なのに、401(k)内で選べるファンドでは1.00%になってしまうといったこともよくありました。

このような場合は、401(k)を使いたいのはやまやまでも、あえてIRAの利用をお勧めするということが、過去には案外あったわけです。IRAは雇用主に全く関係なく、個人的にどこの金融機関を選んでも大丈夫ですし、その金融機関で提供されている多くのファンドラインナップの中から自由に最適なものを選べるという快適さがあるわけです。

ところがここ4、5年くらいでしょうか、ほぼこの点で悩むことがなくなりました。

401(k)のファンドラインアップが劇的に改善されたからです。2009年の金融大恐慌を機に、アクティブファンドからパッシブファンド(インデックスファンド)へのシフトが進むと同時に、不要な手数料に対しての吟味が厳しくなりました。

企業の福利厚生を担当する部署も、401(k)の質が良い人材を引き寄せ、良い人材を留め置くのに重要な要素であることを理解し、その改善に取り組むようになりました。各企業が、低手数料の優良ファンドを取り扱う401(k)運営会社に乗り換えていったわけです。

実際、アメリカで仕事を探す時、給料だけでなく401(k)の質に気を配る人は多いと思います。「どうしてそこの会社を選んだの?」と聞かれ、「すごくいい401(k)がオファーされているんだよ」と答えるイメージです。給料は今だけですが、401(k)は将来も作り上げていくからです。また、低手数料の洗練されたファンドのラインアップに加え、マッチアップもモノを言います。

日本の企業型DCを見ていて面白いなあと思ったのは、日本でマッチアップ(マッチング拠出)というと、企業の拠出に加えて雇用者がマッチアップするという意味なのですね。アメリカでは、雇用者の積み立てに加えて企業がマッチアップすることをマッチアップと呼びます。個人がある程度積み立てをすれば、それにマッチして年収の3%までとか、多いと10%以上を企業が併せて積み立ててくれるという具合です。

話を戻しますが、401(k)のラインアップの低手数料化とインデックスファンド化が進んだと同時に、ターゲット・デート・ファンドが主流になったのも非常に大きい要素だと思います。たとえ低手数料の良質インデックスファンド・ラインアップが提供されていても、やはり投資がそもそもピンとこない人には、それを組み合わせてお金をどう割り振って投資するかを自身で考え、決めなくてはいけない……となると二の足を踏むところも多いでしょう(もちろん、アメリカにもそう考える方は多くいました)。

リタイヤするターゲット年を決めて、その年号を選べば、ポートフォリオの組成をすべて自動でやってくれて、その後の経年のリスク調整もやってくれるオールインワン・ソリューションとしてのターゲット・デート・ファンドは、アメリカにおいては投資が初めての人にも、また投資を長らくやってきた人にも、ほとんどの場合ベストチョイスになりつつあります。

これに加えて、2006年の法改正によって、401(k)のデフォルト加入・デフォルト投資が進みました。これは、雇用者がオプト・アウト(デフォルトを拒否)しない限り、年収の一定割合が自動的に401(k)へ拠出され、積み立てられ、デフォルトの投資ファンドで運用される――いわば“半強制”に近いかたちで自動拠出・自動投資されるしくみです。「やったほうがいいだろうけど、なんとなく一歩踏み出せない」人々を力強く後押ししました。このデフォルト投資の投資先は、ほとんどの場合ターゲット・デート・ファンドに設定されています。

アメリカのターゲット・デート・ファンド市場の覇者はバンガード社です。2020年初頭時点ではバンガードは、2位のフィデリティに大きく差を開け、 ターゲット・デート・ファンド市場の$1トリリオン(38%)を占めています。企業および団体の401(k)でバンガード社のファンドプランを利用しているところは多数ですが、それら401(k)に積み立てている人のうち5人に4人が(自分で個別にファンドを組み合わせるのではなく) ターゲット・デート・ファンドを選んでいます。バンガード社によれば、ターゲット・デート・ファンドの利用率上昇により、これまで見られた知識不足による高株式・高リスク投資が75%解消され、投機的な売り買いが減少し、適切なリスクでの長期投資が促進されたと報告しています。

企業が質の良い401(k)を提供しようとするとき、参加する雇用者が何人いるか、また雇用者全員による投資総額がいくらかという点がポイントになります。大企業で多くの従業員をかかえ投資総額も大きい401(k)プランは、スケールメリットにより、極低手数料の良質ファンドが使えますが、中小企業だとそうはなかなかいかないのが問題でした。この点においても、アメリカ401(k)市場では改革が進んでいます。バンガード社は2020年末に、同社の企業向けターゲット・デート・ファンド(わずか0.09%の手数料)を利用するための最低投資総額を、$100ミリオンから$5ミリオンに劇的に低下させました。これで、中小企業も良質な401(k)の提供が可能となります。

また同時に、規模的にこのレベルに達しないスモールビジネスにとっても嬉しい改革が進んでいます。スモールビジネスの場合、大企業のように福利厚生担当部署などというものがないのが普通ですし、401(k)運営についての情報や知識も限られています。このあたりもサポートしながら、小規模401(k)ならではの管理費用も最小化しつつ、それでいて低手数料の良質インデックスファンドを提供するオンラインベースの401(k)運営会社が現れました。「guideline.com」が代表的ですが、同社ではターゲット・デート・ファンドは提供していないものの、リスクレベルを特定して自動運用するロボアドバイザー的な機能が用意されており、利用者が簡単に運用を開始できるようになっています。

***


振り返ってみるにここに至るまでの道は、インデックスファンド投資への消費者の意識向上、手数料への高まる問題意識、企業の401(k)改善への熱意と努力、ファンド会社および401(k)運営会社のコスト削減と品質改善努力があいまって実現されたものだと感じています。

結果的にリタイヤメント資産準備はかなりシンプルになり、まずは401(k)で所得税を控除し利回り非課税で最大限まで運用する――それでも余剰金がある人はIRAを利用する、というのがデフォルトになりつつあります。

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著者

岩崎 淳子 ファイナンシャルプランナー
岩崎 淳子
「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。

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