「前払い退職金で手取り増」、「老後資金に企業型確定拠出年金」どちらがお得?
みんなの資産運用相談【DC編】

「前払い退職金で手取り増」、「老後資金に企業型確定拠出年金」どちらがお得?

  • 公開日:2021.01.27

Editor's Eye

資産運用にまつわるお悩みにプロが回答するシリーズ。今回は勤務先企業の退職金制度で、前払い退職金か企業型確定拠出年金(DC)かを選択できるが迷っているというアラフォー女性が登場。「手取りが増えるから、何となく前払いで受け取っていますが、老後のことを考えると本当にそれでよいのでしょうか?」と悩んでいます。また「投資=リスク」のイメージがあり、なるべくなら損はしたくないと、資産運用にも不安がある様子。FPの山中伸枝氏がアドバイスします。

【辻 和依さん(仮名)プロフィール】
大阪府にお住まいの38歳女性。半年前に転職し、専門商社で営業事務の仕事に就いている。実家暮らしで手取り月収は約25万円。毎月家に5万円を入れ、貯金として8万円を積み立てており、総貯蓄額は約800万円。仕事にも慣れた最近、会社の退職金制度について悩んでいると言いますが…。

【寄せられたお悩み】
「転職した先の会社の退職金制度について、よく分かっていません。自社では、前払い退職金として毎月の給与に上乗せしてもらうか、あるいは企業型確定拠出年金(DC)に加入するかの選択が可能です。
前払い退職金として受け取れば、毎月の手取りが増えるのでラッキーと思ってそうしていましたが、最近になって親友と話をしていたら、”老後の生活や資産運用を考えればDCが良いのでは?”と言われました。
今まであまり考えたことがなかったのですが、長い目で見ればDCの方が良いのでしょうか? その場合、DCではどんな商品を選ぶべきですか? ”投資=リスク”というイメージがあり、なるべくなら損はしたくありません」

【お悩みの論点】
①勤務先企業で前払い退職金か企業型確定拠出年金(DC)かを選択できるが、それぞれのメリット・デメリットを知りたい
②前払い退職金と企業型確定拠出年金(DC)、どちらを選べばよいか
③「投資=リスク」のイメージがあり、なるべくなら損はしたくないが、どんな商品を選ぶべきか

【資産状況や月々の収支内訳】
金融資産額(運用中の投資額と預貯金を合わせた金額):800万円
内訳
預貯金:800万円

収支
<収入>
・毎月の手取り収入: 25万円
・手取りの年収:300万円

<支出>
・毎月の出費:25万円

最近では、会社の退職金制度が確定拠出年金(DC)だというところも珍しくなくなりました。こうした企業型の確定拠出年金とは、いわゆる退職金の前払い制度であり、本来は退職時に受け取るお金を分割して毎月の給与支払い時に上乗せして受け取る仕組みです。前払いとして受け取ったお金は、60歳まで引き出しができない「老後資金専用口座=確定拠出年金」に入金され、その後は受け取った本人自らが金融商品を選び、運用していきます。確定拠出年金は60歳までは入金専用です。従って、お金の引き出しはそれ以降となります。

一方、会社からの掛金を確定拠出年金として受け取らず、手取り給与の振込口座に入金してもらうことが「前払い退職金」です。文字通り、将来受け取る分を先に受け取ってしまいます。最近は、本人に確定拠出年金の掛金として受け取るか、それとも給与として受け取るかを選択させる会社も少なくありません。ご相談者の辻さんはまさにそういう会社に転職されたとのことですね。

「長い目で見たら確定拠出年金の方が良いのでしょうか?」とのご質問ですが、老後資金を貯めることを目的とすると、確定拠出年金は最強の仕組みです。一方で、60歳前に資金を使う予定のある方、例えば45歳で海外移住をするために資金を作りたいという目的でお金を貯めたいのであれば、確定拠出年金は最悪の仕組みです。なぜなら確定拠出年金は60歳前のお金の引き出しは原則、できないからです。

では、「何となく手取りが増えるからいいかな?」と前払い退職金を選んでいる場合はどうでしょうか? 確定拠出年金には、前払い退職金と比較して次の3つのメリットがありますので、あらためて考えてみましょう。

1つ目は控除での税金軽減メリットです。仮に月1万円を「前払い退職金」として会社から受け取れば、通常の給与と同じ扱いになりますから、社会保険料と所得税・住民税が差し引かれます。社会保険料は15%、所得税は最低でも5%、住民税は10%ですから、手取りは7000円です。一方、「確定拠出年金」として受け取れば、社会保険料も税金も払わなくてよいお金となりますから、1万円がまるまる自分のものとなります。受け取り方を変えただけで3割も得をするのですから、これは大きなメリットです。

もちろん前払い退職金の金額に対して社会保険料を支払うということは、その分、社会保険給付については手厚くなります。特に健康保険からの出産手当金や傷病手当金、雇用保険からの育児休業手当や失業給付などの給付額の変化については、気になる方も少なくないでしょう。しかし実際には、標準報酬月額の等級によって判断されるので、必ずしも前払い退職金を選べば給付が手厚くなるとも限らず、また条件によっては翌年以降も状況は変わってきます。

2つ目は非課税のメリットです。辻さんは現在、銀行預金を利用して貯蓄をされているとのことですが、預金利息には税金がかかります。その課税率は20.315%ですから、相当の負担です。しかし確定拠出年金で仮に同じように定期預金をした場合(確定拠出年金では元本確保型と呼ばれる定期預金等と、元本変動型と呼ばれる投資信託から自由に金融商品を選ぶことができます)、この20.315%もの税金は全くかかりません。課税か非課税か、お金の成長の効率を考えるととても大きな違いです。これは投資信託を選んでも同様で、運用益に対して課税はされません。非課税での運用は最長70歳まで継続できるので、これも確定拠出年金の大きなメリットです。

3つ目は、半ば強制的に貯められるということです。人生100年時代と言われる今、老後のお金を自分自身でしっかりと準備することはとても重要です。以前話題となった「老後2000万円問題」をそのまま老後に必要なお金だと仮定して、38歳の今から60歳までにその分を貯めようとすると、毎月の積立額は7.5万円、50歳から貯めようとすると月16.7万円も必要です。

老後はすべての人に訪れますから、やはり早いうちから備えるべきでしょう。企業型確定拠出年金は、半ば強制的に老後資金が作れる会社の仕組みであるという点もメリットと考えられます。老後資金として60歳以降、一括または分割でお金を引き出すことができますが、その際にも税金が優遇されます。

上記メリットも念頭に置いて、前払い退職金として「今」の自分がそのお金を受け取るのか、あるいは確定拠出年金として、「将来の自分」に仕送りをすべきか、しっかりと考えてみましょう。

また「投資=リスク」というイメージから、資産運用に前向きになれないとのことですが、これは確定拠出年金に加入をする、しないに関わらず見直したい固定観念です。

私たちの普段の生活では、リスクという言葉を危険とか損をするといったネガティブな意味で使うことがほとんどですが、お金の世界では「不確実性」という意味で使います。振り子のように、価値がプラスとマイナスの間を行ったり来たりする、振れるという意味です。ネガティブな意味だけではなく、ポジティブな意味もあり、どちらになるのかあらかじめ分からないということです。従って投資にリスクがあるというのは、「危ない」という意味でもなく、「必ず損をする」という意味でもないのです。

では、投資とは何でしょうか? 投資には、世の中をよりよくするための「価値ある資産」を育てるという意味があります。私たちの暮らしがより豊かになるようなモノやサービスを提供する企業を私たち自身が選び、そこに投資をしてその成長の恩恵を受け取る、それが投資です。

例えば経済には、良い時も悪い時もありますが、やはり「明日はより良くなりたい」という人間が生み出すものですから、長期的には成長していくという前提があります。世界には未来のために頑張る人がたくさんいて、失敗を繰り返しながらやがて成功していくのが常。その集合体である世界経済に長期でお金を投じるのが投資であり、資産形成です。一方、低金利時代における銀行預金は、残念ながら経済成長の恩恵を十分に受けられるとは言い難いのが現状です。そう考えると、「投資にはリスクがあるから」と、お金をそのまま定期預金におきっぱなしにしておくのは非常にもったいないことだと言えます。

従って確定拠出年金では、経済の成長とともにお金も成長させる選択をするべきです。具体的には、世界の株式などに投資をする投資信託を選びましょう。

今回は、会社の退職金制度についてどのような選択をするべきかというご質問にお答えしましたが、相談者の辻さんにとって考えるべきことは、この問題だけではありません。これを機会にぜひ、ご自身の将来のために資産形成を始めましょう。会社の確定拠出年金に加えて、2022年からは個人型確定拠出年金(iDeCo)も併用できるようになります。他にもNISA(少額投資非課税制度)など、これからの資産形成に有効な仕組みもあります。未来の自分をイメージしながら、今、取るべき行動を考えていきましょう。

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著者

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー
山中 伸枝
FP相談ねっと代表。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。これからはひとりひとりが自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナー(FP)として2002年に独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)ほか著書多数、金融庁サイト 有識者コラム連載。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP®)、株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。

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