保有資産10億円!これだけあっても「守りの資産運用」をすべき理由
“お金のかかりつけ医” IFAのアドバイス事例

保有資産10億円!これだけあっても「守りの資産運用」をすべき理由

  • 公開日:2021.02.09

Editor's Eye

銀行や証券会社等の金融機関と比べ、長期的な目線で資産相談に応じると言われるIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)。実際に、彼らは相談者に対してどんなアドバイスをしているのでしょうか。印象深かった相談内容をIFAが振り返るシリーズ連載。第17回の今回は、保有資産約10億円という資産家の相談をご紹介。東京・新宿のIFA法人バリューアドバイザーズで役員を務める田中久登さんが最初に聞いた悩みは「1億円の投資信託の含み損」でしたが、話を聞くうちに、それがささいに思えるほどの悩みが明らかになっていきました。

今回は、ご主人を2年前に亡くされ、相続した資産の運用方法に悩まれていた東京都にお住まいの畠山美幸さん(仮名、70)の例をご紹介します。

相談者:
畠山 美幸さん(70)  会社役員(現在は無職)

ご家族:
夫  啓治さん(2年前に死去)  経営者
長女 晶子さん(45)       主婦
長男 友哉さん(42)      経営者

※いずれも仮名

畠山さんは、保険会社に勤める友人の紹介で相談にいらっしゃいました。一番の悩みは「証券会社からおすすめされて買った投資信託で、大きく損をしている 」こと。友人には保険の相談だけでなくその悩みも話していたそうで「であれば、資産運用に詳しい方を紹介しましょうか」ということで相談に乗ることになりました。

9億円と十分過ぎるほどの現預金をお持ちでありながら投資信託を購入された理由は、ご主人から資産を相続されたのをきっかけに「預金として置いておくよりは良いのでは」と考えたから、とのこと。

商品の内容を見せてもらうと、投資信託の中で最も大きな割合を占めていたのが、カナダの企業に投資を行う毎月分配型の商品。分配金は運用によって得られた利益ではなく、元本の一部から出ている状況で、資産は年々減り続けていました。元々2億円以上の資金を使って購入したそうですが、相談を受けたときの評価額は8000万円程度。分配金として受け取っている分はありますが、1億円以上も損失が出ていたわけです。

元々は大きな含み損を抱えている投資信託をなんとかできないか、というのがご相談のきっかけでしたが、全てのお客さまにお聞きしている「そもそも何のために運用を行いたいのか」という質問を投げかけると、「世話になっている親戚や知人が集まる行事のお金を工面し続けたい」「資産を今以上に減らすことなく、娘に相続を行いたい」という、2つの明確な目的を引き出すことができました。

亡くなったご主人は広島県で医療関係の事業を展開する方で、地域でも有数の資産家。毎年正月には親戚や知人を集めて食事会を開催したり、親戚一同で行く旅行を計画したりしていて、その費用は畠山様が全額負担していたそうです。「お金を工面し続けたい」というのは、ご主人が他界し、東京にお住まいを移された今でもこうした行事や旅行を楽しみにしている親戚・知人を思ってのことのよう。必要な金額を聞くと、その額は年間1000万円ほどだといいます。

一般的には考えられないほど高額な負担ですが、富裕層にとって何より大切なのは人のつながりです。変にコストダウンを図って信頼を失うことを考えれば、費用をかける価値は十分あるというお考えなのでしょう。

また、ご主人が亡くなったときに会社を相続したのが長男だったこともあり、長女が相続した資産の額と長男のそれには大きな差があったようです。長女には多めに資産を相続することで、結果的に平等に資産を相続したいというご意向がありました。ご主人から引き継いだ資産を減らすことなく、可能であれば増やして長女に相続したい、というご要望には、そうした背景がありました。

このように、相談していく中で、ご自身も気が付いていない本音が明らかになることはよくあります。資産形成の本当の目的が把握できたところで、具体的な運用方法の提案を行っていきました。

まずは親戚や知人が集う行事の費用ですが、これは一時的でなく毎年必要になってくるため、金融商品の保有で受け取れる利息によって毎年1000万円程度の利益を出す必要がありました。

さほど大きなリスクを取らずに得られる、利回り3〜4%程度の債券を保有するとして、投資資金として3億円は必要になります 。そのため、相続した資産を含む4億円の現金のうち3億円で社債を購入していただくように提案。一切弁済を受けられない株式と比べるとリスクを抑えられる点を説明し、利息を受け取れる日程表なども作成して提示した結果、運用方針にご納得いただけました。

通信会社や銀行、保険会社といった比較的安定的な業種を選択するだけでなく、アメリカやイギリスなどの社債も組み入れることで投資先の国の分散も行い、リスクの低減を図りました。平均利回りは3.5%程度ですので、3億円の運用資金に対し、年間で1000万円程度(税引き後)を利息として受け取れる計算です。

また、「少しずつ資産を増やし、娘に相続したい」という希望を叶えるために、元々保有していた投資信託については全て売却してもらい、代わりにファンドラップを1億円分購入していただく提案も行いました。

ファンドラップとは、国内外の株式やREIT(不動産投資信託)などを対象とする投資信託を複数組み合わせた商品。世界中の資産に分散投資を行いながら、長期間かけて元本をじっくり増やしていく方針にご納得いただけました。ファンドラップは10種類運用コースがあるうち、最もリスクが低い安定型のコースを提案しました。

リスク許容度を診断した時点では、畠山さんは預金が十分にあるため、最もリスクの高い種類を選んでも問題はありませんでした。本人も「リターンが期待できるのであれば良いですよ」とおっしゃっていましたが、「具体的な数字で言うと、現在の1億円が7000万円ぐらいまで下がる可能性があるんですよ」と最も大きく資産が目減りした場合の想定についてお伝えしました。

もし、老人ホームへの入居など、将来的に現金が必要になったときに換金するとなれば、損失は可能な限り抑えたほうが良い。そうなる場面が近い将来想定されるのであれば、大きなリターンを狙う必要性よりも、無理にリスクを取らない安全性のほうを優先したほうがよい、ということで変動幅が最も小さい安定型の商品を提案し、ご納得いただけました。

畠山さんの場合、保有資産の規模からすると「無理に投資を行う必要はない」という選択肢もあるかもしれません。ただ、これだけ資産を保有している方だと、物価の上昇によって現金の価値が下がってしまう「インフレリスク」に加え、預金として置くと、低金利下でほぼ全く増えないというストレスもあります。そのため、大きな益を狙うより、「預金よりはいくぶん増える」ことを目的とし、比較的リスクの低いタイプのファンドラップをご提案しました。

IFAは最初から商品を提案するわけではなく、お客さまの運用の目的を聞くところから始めます。そのため、証券会社とは異なり、営業というものを全くしないので、驚く方もいるようです。過去には、面談の結果運用の必要がないことを認識され、そのまま帰られるお客さまもいました。

今回の畠山さんの件でも、資産の総額を聞いたり商品を提案したりするのはあくまでも後半のステップ。まずはどういった目的で運用を行いたいのかを聞いていきました。その結果、「毎年1000万円の利益」と「娘への相続」という明確な目的が分かりました。そこで、初めて具体的な商品の提案へと移っていったのです。

証券会社では、相手の要望を深くヒアリングすることなく、「この商品が良いですよ」と、商品ありきでの営業をしてしまうケースも多いようです。そのため、お客さまの運用の目的までは聞き出せない現状があります。

運用の本当の目的をヒアリングできれば、保険や不動産投資など、商品にとらわれない最適な方法を提案することができます。こうして、提携する弁護士等と連携しながら課題解決を図っているので、多くのお客さまから「とりあえず、お金のことで悩んだら田中さんに相談しよう」とおっしゃっていただいています。畠山さまのようなお客さまは、正直同業者のライバルも多いのですが、そんな中でも私とのお付き合いを続けていただいているのは、こうして信頼をいただいているからに他ならないと思います。

IFAへの相談は、「資産運用の手法」ではなく、大切なお金を運用するための目的を明確にする機会、と捉えていただければ幸いです。

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著者

田中 久登 バリューアドバイザーズ 執行役員
田中 久登
大学卒業後、岡三証券に入社。富裕層向けの資産コンサルタントに従事。海外研修を経てIFAへの転身を決意し、現代表の五十嵐と株式会社バリューアドバイザーズ設立に参画。医師、地権者、士業、学生、保険募集人など専門分野向けの資産運用セミナーを得意とし、年間30回程の講演を毎年開催。青年会議所や相続診断士会などの役員に従事し、多方面の人脈形成によりバリューアドバイザーズとしてお客さまフォローを充実させることを理念に、日々活動の幅を広げている。

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