「資産」の意味を理解すれば、1900兆円の個人金融資産は投資に向かう?
金融ジャーナリスト・鈴木雅光が読み解くニュースの本質 8

「資産」の意味を理解すれば、1900兆円の個人金融資産は投資に向かう?

  • 公開日:2021.02.01

Editor's Eye

日本の個人金融資産は、今や1900兆円を超えるまでになっています。しかし、その大半は現金/預金であり、株式等の比率は10%弱、投資信託にいたってはわずか4%弱に過ぎません。長年、「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」が呼び掛けられてきたにもかかわらず、その進捗は芳しくないと言っていいでしょう。そこで、金融ジャーナリストの鈴木雅光氏が、この20年の個人金融資産の推移を分析するとともに、資産形成がなぜ必要なのかを改めて解説します。

日本銀行が調査・公表している「資金循環統計(速報)」によると、個人金融資産の残高が初めて1900兆円台に乗りました。これは2020年9月末の数字で、正確には1901兆円になります。前回調査の2020年6月末が1884兆円ですから、この3カ月間で17兆円の増加となりました。

内訳は以下のようになります。なお、カッコ内の数字は総額の1901兆円に占める割合です。

・現金/預金=1034兆円(54.4%)
・債務証券=26兆円(1.4%)
・投資信託=72兆円(3.8%)
・株式等=181兆円(9.5%)
・保険/年金/定額保険=530兆円(27.9%)
  うち保険=375兆円(19.7%)
・その他=58兆円(3.1%)

この数字を見る限り、金融庁が打ち出している「貯蓄から資産形成へ」の流れは、いまだに進んでいないことを実感させられます。

ちょうど4年前、2016年9月末時点の資金循環統計で、前出の金融資産が個人金融資産全体に占める比率を見ると次の通りでした。

・現金/預金=52.3%
・債務証券=1.5%
・投資信託=5.0%
・株式等=8.6%
・保険/年金/定額保険=29.8%
・その他=2.9%

この4年間で株式等の比率は上がったものの、投資信託の比率は低下し、現金/預金の比率は上昇しています。

さらに遡ってみましょう。

「貯蓄から資産形成へ」の以前のスローガンである「貯蓄から投資へ」は、金融庁が国民の資産形成の手段として、それまでの貯蓄偏重を是正して投資の比率を高めるため、今から20年ほど前の2000年前後に打ち出されたものです。ちなみに2000年の個人金融資産は1409兆円で、そこから約500兆円も個人金融資産は増えました。

では、2000年当時の個人金融資産の中身はどうだったのでしょうか。前出と同様、金融資産別の内訳を見ると以下のようになっています。

・現金/預金=53.9%
・債務証券=3.4%
・投資信託=2.4%
・株式等=8.6%
・保険/年金/定額保険=26.7%
・その他=5.1%

もうお分かりいただけたかと思いますが、この20年間で個人金融資産の総額が34.9%も増えたにもかかわらず、投資信託の比率はたったの1.4%、株式等も0.9%しか伸びていません。そして、現金/預金の占める比率は、53.9%から54.4%へと微増していますから、個人金融資産の内訳は20年前も今も「現金/預金偏重型」のままということです。

「貯蓄から資産形成へ」「貯蓄から投資へ」という呼びかけが長年、行われてきたにもかかわらず、いまだに個人金融資産の内訳が現金/預金偏重型であることの理由として、資産形成に対してある種の誤解があるのではないかと思われます。別な言い方をすると、「資産」という言葉が何を意味しているのかが今ひとつ明確でないまま、とにかくお金を貯めることが資産形成であると考えているのかもしれません。

もちろん現金も預金も資産の一部ではあります。が、会計用語としての資産の意味は、「将来、企業に何らかの収益をもたらすことが期待されている経済的な価値」であると考えられています。

「将来、何らかの収益をもたらすことが期待されている」という部分がキモです。現金は、例えば1000万円をタンスの奥に後生大事に仕舞っておいて10年が経過したとしても、1000万円のまま。当たり前のことではありますが、ただ現金のままでは何の収益も生み出しません。

預金は一応、「利息」という収益を生みますが、現在の金利水準は極めて低いのが難点です。大手銀行の定期預金利率は、預入期間の長短、預入金額の多寡に関係なく、年0.002%程度です。1000万円を10年間預けたままにしても、受け取れる利息はわずか2000円です。つまり、現金や預金のみのポートフォリオでは資産形成にならない、ということになります。

だからこそ、資産形成に投資が必要なのです。例えば株式の配当利回りランキングを見てください。全市場ベースで配当利回りが4%超の銘柄数は250にも達します。

もちろん、配当利回りが高ければ良いというものでもありませんが、業績が安定していて、4~5%の配当利回りが得られる株式への投資は、資産形成の対象として高い魅力を持っています。

例えば三菱商事の配当利回りは、1月20日の終値ベースで5%です。もちろん株式投資ですから、投資した時に比べて株価が値下がりすることもあるでしょう。でも、株価が下落すれば配当利回りは上昇するので、安いところを丹念に拾い続けることで、配当利回りをさらに向上させることもできます。

このような投資は長期の時間軸で考える必要があります。そのため、経営が安定しており、かつ配当利回りの高い企業が対象になります。もちろん遠い未来のことは分かりませんが、三菱商事の経営が20年後まで持たずに倒産してしまう確率は、そんなに高いとは思えません。

安定した利回りという点では、J-REITも資産形成のツールとして高い魅力を持っています。東証に上場されている62銘柄の平均分配金利回りは4%前後を維持しています。投資信託の中にも、安定した利回りが期待できるものは少なくありません。

将来にわたって相対的に高い配当や分配が期待できるものをコツコツと買い続け、30年後、40年後、相応にまとまった投資額になれば、仮に公的年金の支給額が減額されたとしても、それを補えるだけのキャッシュフローが得られるはずです。まさにそれが「経済的な価値」であり、本来の意味での「資産」だと言えるのではないでしょうか。

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著者

鈴木 雅光 金融ジャーナリスト
鈴木 雅光
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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