
企業担当者の「先行き期待感」を反映 PMI(購買担当者景気指数)とは?
- 公開日:2021.02.24
Editor's Eye
「海外市場」というと、米国のそれを連想する人がほとんどではないでしょうか。それほど大きな存在である米国市場の先行きを見通す際、米国雇用統計や鉱工業生産指数といった経済指標が参照されることは広く知られていますが、では「PMI」という指標をご存じですか? 国内大手運用会社、三井住友DSアセットマネジメントの投資情報グループ ヘッドを務める渡辺英茂氏が、この指標の特長や重要性について解説します。
購買担当者への「アンケート」で算出される指標、PMI
PMI(Purchasing Managers’ Index)は購買担当者景気指数と呼ばれ、企業の購買担当者への自社の業況等のアンケートを基に算出される指数です。50 が分岐点で、50 を超えると景気拡大、50 を下回ると景気後退を示します。国や地域別、製造業・サービス業(非製造業)ごとの集計も行われており、各国・各地域の景気の今後を占う上で参考になる経済指標と言われています。
PMI にはいくつか類似する指数があり、代表的なものとして、米国ではISM(米供給管理協会= Institute for Supply Management)製造業指数やサービス業指数、Markit 社が作成しているPMI があります。
図1は、1982 年から直近までの米国の実質GDP 成長率(前年比)とISM製造業指数を示したものです。これを見ても、ISM 製造業指数が経済全体の状況をよく表していることが分かります。
図1 米国の実質GDP成長率(前年比)とISM製造業指数
出所:Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
PMIの発表タイミングは「最速」レベル
なぜPMI に市場の関心が集まるのでしょうか。
1つは前述したように、経済全体の状況をよく表す指標であること。2つ目の理由は、他の経済指標よりも発表の時期が早く、経済の状況を早いタイミングで推察するのに有用だという点です。
例えば、図1で示した実質GDP は、通常、四半期が終わった翌月か翌々月の発表とかなりの時間を要する一方、PMI は月次データなので、各月に直近のデータが公表されます。
今年1月の数字を例にとると、ISM 製造業指数は2月1日に発表されます。米国の経済統計の中で極めて重要と考えられている雇用統計も、月が終わってから日を置かずに発表されますが、1月分のデータ公表日は2月5日です。消費の状況を示す小売売上や企業の生産活動を示す鉱工業生産指数に至っては、発表予定日は2月17日と、2月も半ばを過ぎる格好です。こう比較すると、PMI データの「早さ」が分かります。それまではISM 製造業指数と10 年国債利回りがよく連動していることが分かります。
2020 年春以降、ISM 製造業指数が大きく回復する一方、長期金利は低位で推移しています。ISM の上昇は、米国をはじめ大規模な金融財政政策を行って景気をサポートしたことや、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が一時落ち着いたことなどを受けて経済が回復に向かったために生じました。
図2 米国の10年国債利回りとISM製造業指数の推移
出所:Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
一方、10 年国債利回りが1%程度の低水準で推移しているのは、FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を実質的にゼロに抑制する、いわゆる「ゼロ金利政策」を取っていること、それに加えてFRB が大規模に米国債等を買い入れるいわゆる「量的金融緩和」によって大量の資金を経済・金融システムに持ち込んだためと考えることができます。
今後、ワクチンの普及によって感染状況が改善すれば、景気回復は一層確かなものとなり、それに伴って長期金利も徐々に上昇に転じるのではないかとみられます。
次に、PMI と株価の関係を確認します。株価は経済や企業活動の上下に連れる形で動いていますが、図3を見ると、ISM 製造業指数が株価の変動ともよく連動していることが分かります。2008 年から2009 年にかけてのリーマン危機や、2015 年から2016 年にかけての中国経済の弱含みや人民元の切り下げ、さらには原油価格が大幅に下落した際には、経済活動の縮小や弱含みと共に、株価も下落しました。逆に、それぞれの景気後退からの回復期にはISM 製造業指数も株価も上昇していることが見て取れます。
図3 米国株式とISM製造業指数の推移
出所:Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
足元のPMIは50台後半と高水準 見通しはそう暗くない
ISM 製造業指数は、昨年の新型コロナ感染抑制のためのロックダウンに伴う景気の急減速からの回復を受けて、現在概ね回復傾向にあります。2月1日に発表された1月のデータは、前月からやや低下し58.7 でした。
依然として好不況の分岐点である50 を大きく上回っています。これは、米国経済が好調で、しばらくはその状況が続くということを示唆しています。
ただ、米国では新型コロナの感染第三波がようやくピークアウトしてきているものの、新規感染者数自体は依然高めの水準であり、実際の経済が万全というわけではありません。こうした状況でもISM 製造業指数が高水準な理由には、活動規制の影響が製造業にとってサービス業に比べれば限られること、新型コロナの感染抑制に成功している中国等の経済が回復し、輸出が改善していること等が挙げられ、今後もしばらくは50 台後半と高めの数字で推移する可能性があります。
その場合の金融市場へのインプリケーションとしては、株式市場にとってはポジティブです。長期金利には上昇圧力が掛かるでしょうが、米国経済は新型コロナの影響から完全に回復し切っているわけではなく、FRB の積極的な金融緩和は継続されるとみられますので、長期金利の上昇ペースは緩やかなものとなると考えられます。