
受け身ではもったいない! 企業型DCをより良くしていく主役は加入者
- 公開日:2021.03.23
Editor's Eye
多くのサラリーマンにとって、老後資産形成の大きな柱である企業型確定拠出年金(企業型DC)。その実務を担う人事・総務のDC担当者はどんな課題を抱えているのか。先日公開された「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査 2020」から、「“受け身”な姿勢になりがちな企業型DC加入者が、制度運営に能動的にかかわることでより充実した制度を共に創っていけるはず」と訴えるのは、確定拠出年金制度、そして企業側の事情にも精通し、当調査の調査主体「確定拠出年金教育協会」の理事でもある大江加代さん。調査結果から読み解ける企業型DC担当者が抱える課題とその背景について、2回にわたって解説していただきます。今回はズバリ、担当者の抱える「悩み」をピックアップしてもらいました。
私が理事を務めるNPO法人確定拠出年金教育協会では、長年、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している企業の担当者にご協力いただき実態調査をしています。今回は、制度運営にあたっている「担当者の悩み」にフォーカスしてみたいと思います。
企業型DCの担当者の悩みは「継続教育」がトップ
担当者の悩みは企業規模にかかわらず、「継続教育」「加入者の無関心」が1位2位を独占しています。導入時期別でみても、導入直後の企業を除けば上位の2つは同じです。
「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020全体報告書」内
Q2-SQ1.現時点におけるDC制度に関する一番の悩み(課題)の結果
※人数は従業員数
継続教育については、法令だけでなく、その解釈通知※の中で伝えるべき項目や継続教育にあたって配慮すべき事項などが比較的詳細に書かれています。ただ、具体的にどういう手段で、何年ごとに何回受講させ、何を基準として「できている(または十分にできている)」と言ってよいかという判断のようなものは示されていません。
※確定拠出年金法令解釈通知(厚生労働省)
これは、企業規模や職場環境が違うので情報提供や教育機会も各社ごとにまったく違い、企業型DCが退職金に占める割合が10%というところと、100%というところではその重要性も異なることから一律の基準を決めないで欲しいという企業側からの声を受けて作られてこなかったと私は理解しています。
ただ、2016年の法改正で継続教育が努力義務になったことで「継続教育」への関心は高まり、継続教育を熱心に実施している担当者は「これで実施したと言っていいのだろうか?」と悩み、一方でこれまでまったく継続教育を実施していない担当者は「そもそも何をどうしたらいいのだろう?」と悩むようになり、最近は制度改善要望として「拠出限度額の引き上げ」よりも「継続教育の基準の明確化」を挙げる担当者も出てきています。
経営層の関心の低さが継続教育への悩みを深くしている
企業型DCは会社が掛け金を出しますが、確定給付企業年金のように毎年の運用状況によって会社の財務に与える影響があるわけではありませんから、経営層の報告事項から外れることが多く、その関心は導入以降急速に下がる傾向があります。
また継続教育は実施しなかったからと言って現状は罰則がないため、社員の時間と経費を使って継続教育をしなければならないという切迫感が強くありません。
こうなると、実施しようとする担当者にとっては、予算も時間も取りにいく段階からハードルがますます上がります。結果的に、労働者代表である組合がしっかりしていて経営に申し入れをしてくれる企業以外は、担当者が経営や関係部署を強く説得する必要があり、悩みの筆頭になっていると思われます。
2番目の悩みは、年々広がる加入者の「関心格差」
2つ目の「加入者の無関心」は導入から数年たつと2番目に浮上してくる悩みです。
継続教育はできれば「関心がない」人に制度や資産運用・利用できるツールについて知ってもらって活用してもらおうと情報提供を行うのですが、情報発信をすると反応してくれるのは残念ながら「関心がある」人になってしまうというジレンマが生まれます。
導入から年数が経てば経つほど、継続教育を繰り返し実施すればするほど、残念ながら理解や関心の格差はどんどん拡がり、この悩みは深くなっていくことになります。
こういった「継続教育」と「加入者の無関心」への対策になればとフォーラムやメルマガを通じて企業のご担当者に教育の好事例などをこの数年積極的にご紹介してきましたが、ふと、これらを解決できるのは「担当者」ではなく、「加入者」なのではないかと思い始めています。
こちらは継続教育を過去3年に実施していない担当者にその理由を聞いたものです。
「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020全体報告書」内
「Q7-SQ5.過去3年間に継続教育を実施しなかった理由」の結果
時間や職場環境を実施しなかった理由に挙げている割合が高いものの「何を教育したらよいかわからない」という回答が1割以上もありました。
だとすれば、加入者が「自分と同じ30代の資産配分を参考にしたい」「こんな映像だったら家でも見る」「運用の失敗事例を知りたい」などと具体的にどうして欲しいか声を上げていったなら、担当者はそれをヒントにもっと加入者が関心の持てる効果的な継続教育ができるのはないかでしょうか
コロナの影響で在宅勤務が拡がり、継続教育も大手を中心にご自宅から視聴できるようなライブセミナーや動画にシフトしてきています。商品選択のための資産配分シミュレーションやロボアドも企業型DCの世界では昔からあります。
加入者である皆さん自身がそれを観て、使って考えてみて、さらにどんなサポートをしてほしいか――声を届けて頂けたなら担当者はやるべきことが明確になり、内容がグンとブラシュアップされると思います。経営層への説得も従業員からの要望が後押しになっていくと思います。
社内でDC担当者に意見を届ける機会があったら、ぜひ積極的に皆さんの要望を伝えていただき、納得感あるサポートを受けながらご自身の老後資産形成に役立てて頂きたいと思います。
今回ご紹介した『企業型確定拠出年金担当者の意識調査に関する調査結果』は確定拠出年金教育協会のホームページからどなたでもご覧になれます。