確定拠出年金導入企業が負う「DCガバナンス」とは―法改正を受け本格始動の兆し
「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020」結果リポート 2

確定拠出年金導入企業が負う「DCガバナンス」とは? 法改正を受け本格始動の兆し

  • 公開日:2021.03.26

Editor's Eye

企業型確定拠出年金(企業型DC)の実務を担う人事・総務のDC担当者はどんな課題を抱えているのか。「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査 2020」の結果から、加入者も知っておくべき内容を解説するシリーズの第2回。今回は「ガバナンス」をテーマに、大江加代さんに解説してもらいました。企業型DCの環境整備やそのPDCAをモニタリングするといったガバナンスが正しく機能していないと、最終的には加入者の運用結果に影響してくる可能性すらあるとのこと。本来企業が背負うべきとされているガバナンスとはどのようなもので、現在の課題は何なのか。より能動的に企業型DCに関わるために、“自分ごと”としてご覧ください。

企業年金のガバナンスと言えば日本では数年前まで確定給付企業年金(DB)の世界の話だけだと思われてきましたが、確定拠出年金(DC)においても「ガバナンス」が大切だと言われるようになってきました。

さっそく、DCにおけるガバナンスの具体的内容から紐解き、実態や課題について見ていきましょう。

「企業年金のガバナンス」とは、制度の目標の設定・達成のための手段の検討・実施状況のモニタリング、改善提案といった制度のPDCAが誰の目から見ても健全に行われるような仕組みの整備を指します。

DBでは資産運用委員会や総合型基金での代議員のあり方などが議論され、必要な法制上の手当もなされてきました。

一方、DCについては、OECDの企業年金に関するガイドラインにおいてDC特有の事項として、以下の4点を制度運営者に確保するように挙げています。

・適切な運用商品の加入者に対する提供(デフォルト商品を含む)

・提供商品の実績モニタリング

・加入者が負担しているコストが適正であること、またコスト内訳の加入者に対する開示

・加入者に対するガイダンスの提供、および関連する場合には将来給付予想額の提示

最初の3項目は、運用商品に関連する項目となっていて、適切な商品を提示することが確定拠出年金においては大変重要であるということを示しています。ご存じの通り、それは運用商品が、企業型であれば会社が、個人型確定拠出年金であればそれぞれの運営管理機関があらかじめ用意しているものに限られ、その中から加入者は自分で選んで掛金を運用し、受取額はその運用結果次第で決まるためです。受取額にダイレクトに影響しますから、適切な運用商品が選定されていることは、とても大切です。

また、4つめの項目は加入者に「この商品のまま60歳まで運用すると受取額としてこれくらいです」「公的年金等と合わせて老後資金として想定している額に達していますか」というようなことも示しながら商品選択をサポートしていくといった、継続教育です。こちらも、加入者自らが運用するDCならではの欠かせない事項かと思います。

表立って話題にはなっていませんが、企業型の商品ラインナップの見直しによい影響を与えたのは、2018年5月に確定拠出年金法等の改正によって「事業主が委託先の運営管理機関の業務評価を5年に1度は行い、必要に応じて運営管理機関と対話・業務改善申し入れなどを行うこと」が努力義務となったことがあります。

そして、この施行にあたって、運用関連運営管理機関の評価項目として法定業務である「商品の選定・提示」によって、企業と運営管理機関の取引関係やグループの運用会社の商品を運営管理機関が当然のように並べるのではなく“真に加入者利益を追求しなければならない”ということが明確になったことは大きかったと思います。

それまでは、企業が負担する運営管理費用を安くする代わりに加入者が負担する投資信託の信託報酬は高いものを並べる、とか投資信託商品はほぼ運営管理機関と同一グループの運用会社の商品といった、今では考えられないようなことが裏では横行していましたから、運営管理機関側にも導入企業側にも相当な衝撃が走ったはずです。

確定拠出年金教育協会が毎年実施している企業型DCの実態調査でもその変化は明確です。2016年の法改正前の段階では、「商品ラインナップの見直しの判断基準(追加の場合)」として、「運営管理機関等との取引関係」が非常に多かったのが、2018年以降は急減し鳴りを潜めています。



商品ラインナップ見直しの判断基準(追加する場合)の2016年、2018年~2020年の結果

※「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020全体報告書」内「Q14-SQ3.商品ラインナップ見直しの判断基準/1.商品を追加する場合」と過去調査の同様の質問の回答結果を合わせ、独自に作成

現在では、「これまでにないカテゴリーの追加」「提示金利や運用実績」、「信託報酬等の手数料」といった加入者目線、加入者利益を重視する項目が上位に来るようになりました。

商品という軸ではガバナンスの兆しを感じるものの、ただ「体制整備」に目を移しますと、DCガバナンスと言える体制は「特にない」が残念ながら半数を占めている状況です。


「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020全体報告書」内
「Q4.DCのガバナンス(モニタリング)体制」の結果


「特にない」とは、おそらく担当者個人が運営管理機関から「提示商品の実績」「提示商品のモニタリング結果」「加入者の運用状況」といった報告を受け、担当者個人が現状のままでよいかどうか判断を下してしまっているということです。

企業型DCの担当者は、人事や総務部門の方が担当となっていることが多く、「金融商品の最新動向に触れる機会があまりなく、運用商品について詳しくはないのです」と仰る方も珍しくはありません。もし、金融商品などに詳しい担当者だとしても個人が、社員全員の老後資産を運用する商品について単独で判断するというのは重過ぎる気がします。

次に「DCガバナンスの体制」として回答が多かったのは「担当部署内で情報共有」42.8%で、先ほどの個人単独から複数名でのモニタリング体制になっている点は安心かと思います。

しかしできるならば、労使双方のメンバーが入った会議体で定期的に報告し、「商品」や「加入者教育」の課題を共有し、課題解決のための議論することが望ましいと言えます。経営者側が入ることで、加入者教育に必要な時間や予算がつきますし、労働者代表が入ることでより加入者視点の意見や要望を制度運営に反映していくことができるからです。

最後に教育の状況についてみてみましょう。

継続教育の実施について 2005年~2020年の結果

※「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2020全体報告書」内「Q7.2017年以降の継続教育の実施について」と過去調査の同様の質問の回答結果を合わせ、独自に作成


加入者教育については過去13年あまりの経過をみると、過去3年以内に継続教育を実施した割合は残念ながら6割程度とあまり変わりません。

しかし、その実施している企業では、より効果と継続性を追求し、ライフプランセミナーやキャリアセミナーの一部に短時間組み込んだり、集合しなくても学べるeラーニングやzoomを使ったライブセミナーを活用したりと大きく変わってきています。

確定拠出年金教育協会では、こういった継続教育やガバナンス体制について素晴らしい取り組みをされている企業を「DCエクセレントカンパニー」として毎年数社選出させていただき、モデル事例としてご紹介させていただいておりますので、企業担当者の方はぜひ参考にしていただけたら幸いです。

一方で、4割の導入企業では継続教育ができていない実態があり、運営管理機関や企業担当者からは経営層の理解がなく加入者教育に予算と時間が割けないという声も耳にします。教育を含む「DCガバナンス」は経営側の理解が欠かせません。一人一人の社員の60歳までの運用期間が刻々減っていることを思うと、もう一段ガバナンス強化が進み健全な環境で老後資産作りが進むことが望しいと考えています。

また、会社規模による差という課題も残っています。2016年の法改正以降、DCガバナンスに徐々に光が当たり、社員数300人以上の比較的規模の大きな企業ではその動きが少し見られるようになってきました。しかし、現在約750万人いるDC加入者のうち、その恩恵にあずかっているのはごく一部です。

「DCガバナンス」について必要性・重要性をもっと広く知ってもらうとともに、今後具体的な事例が多く紹介され、企業型DC制度がより健全な形で運営され利用されていくことを心から期待しています。

今回ご紹介した『企業型確定拠出年金担当者の意識調査に関する調査結果』は確定拠出年金教育協会のホームページからどなたでもご覧になれます。

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著者

大江 加代 確定拠出年金アナリスト
大江 加代
オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、25万人の投資教育も主導。確定拠出年金教育協会の理事として、月間20万人以上が利用するサイト「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及・活用のための活動も行っている。

参考サイト
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