iDeCo(イデコ)との
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iDeCoの受け取り サラリーマンの出口戦略

iDeCoの受け取り サラリーマンの出口戦略

公開日: 2020年11月12日
大江 加代

大江 加代 /
確定拠出年金アナリスト

iDeCoの卒業である受け取りは、多様な選択が可能です。これまでお話ししてきた通り、私はきちんと戦略を立てて、自分のライフプランに合わせて総合的に決めていくのがベストだと思います。今回はサラリーマンの事例で計画を立てる際のポイントをご紹介していきたいと思います。
iDeCoの加入者で一番多いのが、サラリーマン。それも会社に年金で受け取るタイプの退職金、いわゆる企業年金がない会社にお勤めの方です。まずは、この企業年金がない会社の方のiDeCoの受け取り事例からご紹介していきましょう。

【受取パターン1】働きながら、60歳からiDeCoを年金で受け取り

iDeCoの受け取りと言うと、退職所得控除という大きな税金がかからない枠が使える一時金と考える方が多いと思いますが、会社の退職金とiDeCoの受取額を合わせると、退職所得控除を超えませんか? ローンの返済などで大金が必要でなければ、年金で受け取ることも考えてみましょう。

iDeCoの年金受取の例

iDeCoの年金受取の例

この方の場合、公的年金を繰り上げしなければ、60歳から65歳の間に他に年金として受け取るものがないので、公的年金等控除という非課税枠がまるまる残っていますから、これを使ってiDeCoを受け取ることが可能です。60歳から65歳までですと年間60万円までの年金受け取りについては一切税金がかかりません。つまり年間60万円、5年間で300万円までは税金がかからずに年金で受け取れると言うことになります。その間の口座料や振込手数料はかかりますが、年金でも税金がかからない受け取り方はあるのです。ポイントは、他の年金とタイミングをずらす、です。

これを応用して、2022年5月以降65歳までiDeCoに加入し続けた時の受け取り方も考えてみましょう。

【受取パターン2】65歳までiDeCoに加入し続け、65歳~70歳の間は年金で受け取る(公的年金受給は70歳に繰り下げ)

iDeCoの年金受取の例

iDeCoの年金受取の例

65歳以降は年金が主な収入になってきますから、年金として非課税で受け取れる枠が広がります。例えば年間110万円までの年金であれば税金がかかりませんが、公的年金と合わせてiDeCoを受け取ると超えてしまう方が多いでしょう。超えてしまうと、その超えた部分は雑所得として、所得税・住民税、社会保険料の対象になりますから、できれば公的年金等控除内に抑えたいものです。その工夫としてご提案したいのが、公的年金の繰り下げです。例えば公的年金は65歳からではなく、70歳から受け取ることにして、iDeCoをつなぎ年金として65歳から70歳までの間に受け取るとすれば、年間110万円、5年で550万円までは課税されずに受け取ることができます。さらに公的年金は65歳で受け取る予定だった金額の42 %増の金額を70歳以降、生涯受け取ることができます。どんなに長生きしても支払いを継続してくれる公的年金は安心老後の要です。60代前半は働いて、60代後半をiDeCoとその他の資産の取り崩しで生活費をカバーし、公的年金の受け取り開始を遅らすことができれば、理想的な受け取り方だと思います。

会社に年金で受け取るタイプの退職金があるサラリーマンの場合は、公的年金に加えて会社の年金との組み合わせも考える必要があります。いつから、いくらぐらいもらえるのかご存じでしょうか?ぜひ、この機会に確認してみましょう。さらに、会社の年金も受け取り開始時期が60歳定年時だけではなく、再雇用終了時の65歳も選択できるというような制度にしている会社も増えてきました。タイミングの選択次第で、税額を計算する際に合算されるものを減らすことができますから、受け取り開始のタイミングが選べるのかどうかは重要な要素です。ぜひ、金額だけでなく、タイミングの選択の有無も確認してください。

税控除の枠を有効活用して受け取る時の鉄則

  1. 60歳前に受け取り方の戦略を立てる
  2. 自分が受け取れる年金・一時金のすべてについて、いつから、いくら、どんな受け取り方の中から選ぶことができるのか把握する
  3. 受け取り年齢ごと控除できる枠の中に、年金や一時金のピースをおいて都合の良い受け取り方を探る。進め方のコツは受け取り自由度の低いものから仮置きすること

自分の老後のために手塩にかけて育てたiDeCo。受け取り順序などはいったん受け取ってしまってからでは変更できませんから、60歳前に自分が受け取れる年金・退職金の情報を収集してぜひ出口戦略を立ててください。自分にとってのベストな受け取り方を探すコツはいろいろな受け取り方を比較することです。比較することで、メリット・デメリットや工夫のしどころがみえてきます。そして、検討する過程で疑問が出てきたら、契約している運営管理機関のコールセンターを積極的に活用しましょう。アクションすればするほど納得できるよい選択ができます。この記事がひとりでも多くの方のiDeCoの卒業に役立つことを心から願っています。

大江 加代

大江 加代(おおえ かよ)

確定拠出年金アナリスト

オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、25万人の投資教育も主導。確定拠出年金教育協会の理事として、月間20万人以上が利用するサイト「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及・活用のための活動も行っている。